記事更新日:2023年05月11日 |
用語集 人事・労務お役立ち情報認知的不協和理論とは、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが提唱した自己を正当化する理論を指します。認知的不協和とは、自分の考えや認知していることに矛盾する事実とぶつかったときにストレスを感じることを表した心理用語です。ストレスが大きくなった際に自分の考えや行動を正しい方向へ変えるのではなく、つじつま合わせや言い訳などで自己を正当化します。そのような心理現象を説明するものが認知的不協和理論です。
タバコが健康に害があることを理解していながらタバコを吸うことは、認知的不協和の代表的な例です。喫煙者は「タバコは身体に悪い」ことと「自分は喫煙者である」という2つの矛盾する認知を抱えます。この矛盾によるストレスを減らすために、「健康診断では全く問題がない」「タバコを我慢する方がストレスが溜まって健康に悪い」など、自分の行動を正当化している傾向にあります。自分の中で認知を変換することで、認知的不協和を解消している例です。
付き合ってる恋人に決定的な別れる理由がありながら別れられないことも認知的不協和によって起こりがちな事例です。例えば、恋人に許しがたい行為をされても恋愛感情がある場合、「好きだから我慢しなければいけない」といった感情が働き、認知を歪めて恋愛関係を続けるでしょう。また、自分が恋人に対して恋愛感情がなくても、「周りから羨ましがられるスペックだから」「見た目が良いから」と付き合う理由を正当化する傾向にあります。
痩せなければいけないのに食べ過ぎてしまい、結果ダイエットに失敗する事例も認知的不協和の働きによるものです。例えば、自分の理想の体型や健康のために痩せよう思いながら、お菓子を食べることをやめられないという矛盾が発生します。その矛盾したストレスを解消するために、「食べるのを我慢しすぎると逆に太る」「今日は食べても大丈夫」と食べることを正当化するように認知を変換します。認知的不協和理論によって本来取るべきと思っている行動ができず、失敗に終わってしまう例です。
ビジネスの場で起こりがちな認知的不協和には、上司に対して意見を言えないことが挙げられます。上司は自分の評価者であるため、会社での立場を左右する存在です。上司が間違っていることに気が付いても、意見を言うことで関係が悪くなり会社に居づらくなるかもしれないと矛盾した思いを抱えることになるでしょう。「経験豊富な上司が間違えるはずない」「自分より優れているから大丈夫だ」と、自分が意見を言えないことを正当化します。
上下関係にない同僚とのコミュニケーションでも認知的不協和が働き、関係に摩擦が生じやすいです。特に上司の評価によって昇進にばらつきがある組織体系の会社では起こりやすい事例です。例えば、自分が優れた実績を持っているにも関わらず同期が早い出世を遂げると、自分が評価されない矛盾を感じて認知的不協和が生じます。「上司に媚びるのが上手いから」「本当は自分より仕事ができない」と思い込むようになり、同期との関係が悪くなるでしょう。
憧れだった職業に就いたものの、仕事内容とのギャップで楽しくないと感じることも、心理的不協和が働いた結果です。思い描いた仕事の理想像と実際の業務の大変さや退屈さが矛盾し、認知的不協和につながります。入社直後はやる気に満ち溢れていたはずの新入社員が、しばらくすると無気力になってそのまま離職するケースもあります。中には乗り越えて会社に馴染む社員もいますが、離職を防ぐために会社でも問題意識を持つ必要があります。
「低い給料なのに長時間労働を強いられる」という状況下にありながら働き続けているという人は、認知的不協和が発生しやすいです。この場合「労働環境が良くない」と分かっていながら「職を失いたくない」といった矛盾から認知的不協和が生まれます。「大変だがやりがいがある」「いずれは高給取りになれる」と、過酷な環境下で働き続ける自分を正当化するでしょう。自分の身体面や精神面の限界をごまかしてまで働き続けることにつながるため、注意が必要です。
前提の認識を変えることは、ビジネスシーンでの認知的不協和を解消するための手段の一つです。本来やるべきことやしたいことに価値を与えるということです。例えば、「上司に意見を言いたいが、立場を気にして言えない」という場合、「言う」という行為に価値を置きます。「自分の意見を伝えることで改善されて、結果上司の評価も上がる」のような理由を見つけ、「言えない」理由の価値を上回れば、認知的不協和を乗り越えられるでしょう。
認知的不協和を解消する方法として、矛盾する認知の前提となる条件を変えて価値を失くすことも有効です。例えば、過酷な労働環境下で「やりがいがあるから働く」という場合、「働くことはやりがいではない」と条件を変えて価値を排除してみることです。「働く」ということに価値を感じて正当化していたことを、条件を変えて正当化できないようにします。一度立ち止まって前提条件を変えることで疑問が生じ、本来の目的の達成のための行動ができるようになるでしょう。
認知的不協和を理解しておくことで、マーケティングに活かすことができます。具体的に商品が必要な理由を伝えることは、認知的不協和を解消し購入につなげる一つの手段です。例えば、認知的不協和を抱えて商品の購入に踏み切れない人に対し、商品の効果やメリットを伝えて購入する理由を示します。商品を購入する理由を得れば「商品を買いたい」という心理を正当化できるため、認知的不協和が解消されて購入につながります。認知的不協和の解消は消費行動の後押しとなります。
商品を購入して終わりではなく、アフターサービスを行うことで認知的不協和が解消されてリピートにつながる可能性が高くなります。消費者は商品を購入した後も「本当にこの商品を買ったのは正解だったのだろうか」と悩むことがあるでしょう。そんなときに、次回の購入時に有効な特典の案内やお礼のメールを送るなどのアフターサービスが有効です。丁重にフォローすることにより、「いい接客を受けられたからここで購入したのは正解だった」と認知を変換し、認知的不協和を解消できます。
認知的不協和が生じる原因となる矛盾に焦点を当て、キャッチコピーに活かすことも一種のマーケティング技術です。例えば「何もしなくても100万円稼ぐ方法」というタイトルの本を見たとします。何もせずお金を稼げるはずがないので、矛盾したタイトルに一種の不快感を抱く消費者もいるでしょう。この場合も認知的不協和が働いています。消費者は自分が抱えるその矛盾を解消したくなり、その本を購入するという行動につながります。商品の購入自体が、認知的不協和の解消になるパターンです。
返報性の法則は、自分が人から何かしてもらった時にお返しをしたくなる心理作用のことです。例えば知人から誕生日プレゼントをもらった場合、「お返ししなきゃ申し訳ない」という心理が働きます。また、スーパーで試食したら何か買わなければいけない、素晴らしい接客を受けたらその店で何か買いたい、という心理から購入につながることがあるでしょう。自分が行動することで「申し訳ない」という気持ちを埋める、一種の認知的不協和の解消方法です。返報性の法則はビジネスシーンの戦略として使われることがあります。
ベン・フランクリン効果は、相手からの頼みごとを引き受けることで好意を抱きやすくなる心理現象を指します。頼みごとをされたとき「そこまでやる必要がないのにやる」という矛盾が発生し、認知的不協和を抱えることになります。例え相手に対しネガティブな感情を抱いていたとしても、脳が「やる理由」を探した結果、「好意があるから」という認識で矛盾を埋めることで解決します。この心理現象を上手く利用すれば、ビジネスシーンにおいてもスムーズなコミュニケーションにつながります。
ハロー効果は、ある一部の強い印象に引き付けられて全体的な印象が良く見える心理現象です。学歴や経歴がハロー効果をもたらす典型例です。テレビのCMや商品の広告で有名人が起用されているのは、ハロー効果による戦略で集客するもので、「この人が使っているなら間違いなく良い商品である」という印象を与えます。商品そのものに注目されているのではなく、印象に引きずられて購入につながります。問題を起こした芸能人がCMや広告から降板するのは、ハロー効果が意識されるためです。
ホーン効果とは、ハロー効果とは逆で悪い印象や特徴に焦点が当てられ、全体的な評価がネガティブな方向へと引きずられる心理現象です。例えば、目つきが悪いだけで「この人は怖い人だ」と判断されることや、服装がだらしないと「仕事ができないだろう」と科学的根拠や因果関係がないまま評価されます。クレーム対応をしている従業員がおどおどしていることで余計に怒らせるといった事例も、ホーン効果からくるものです。ホーン効果によりビジネスが滞る可能性があることに留意し、対策することが求められます。
認知的不協和理論の事例や解消方法、マーケティングへの活かし方を紹介しました。自身の行動を振り返って思い当たる経験があるかもしれません。矛盾から生まれるストレスにより発生するためネガティブな意味に聞こえがちですが、上手く活用すれば円滑な人間関係の構築やマーケティング戦略の手段となります。度が過ぎると過剰に思われることや信頼の喪失にもつながるため、あくまでエッセンスとして取り入れることが大切です。認知的不協和理論を理解して、社員教育や商品企画に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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