記事更新日:2026年01月13日 | 初回公開日:2026年01月13日
用語集 人事・労務お役立ち情報 グローバル用語解説

善管注意義務違反とは、取締役のような役員が法律上の義務を怠ることであり、損害が発生した時には責任を問われることになります。善管注意義務は取締役のような特定の地位にある人物に対して、職業や社会的地位にふさわしいとされる業務上の義務を指します。会社法に定められており、委任契約における受任者の基本的な責任として規定されています。経営の現場で判断を任される役員にとって、意識しておくべき原則といえるでしょう。注意義務を怠った結果として企業や第三者に損害を発生させた場合、その責任者は義務違反を問われ、損害賠償などの法的責任を負う可能性があります。

取締役は、善管注意義務を怠った場合に損害賠償責任を負わされます。会社法第423条第1項は、取締役がその任務を怠ったことによって会社に損害が生じた場合、会社に対して賠償する責任があることを定めています。この「任務を怠った」とされる典型例が、善管注意義務違反や忠実義務違反です。たとえば、市場調査を行わずに新規事業への投資を決定し、企業に多額の損失を与えた場合、判断の前提となる注意を欠いたとして責任を問われる可能性があるでしょう。
取締役の義務の一つに、忠実義務があります。会社法第355条に定められており、取締役は法令や定款、株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実でなければなりません。善管注意義務が業務執行における「注意の程度」を問題にするのに対し、忠実義務は「会社の利益を最優先する」という姿勢そのものを問う点で異なります。たとえば、自己または第三者の利益を図るために、意図的に会社に損害を与えるような取引は、明白な忠実義務違反です。両者は密接に関連しており、善管注意義務違反が同時に忠実義務違反と評価されることもあります。
取締役の義務には、経営判断と監督義務があります。経営判断の誤りで会社に損害を与えれば、責任を問われる可能性があります。しかし、合理的な情報収集と検討に基づいた決断であれば、結果的に損害が生じても「経営判断の原則」が適用され、直ちに善管注意義務違反とは見なされません。これは、判断の「結果」ではなく、判断に至るまでの「プロセス」が合理的であったかを重視するルールです。監督義務は、取締役が他の役員や従業員の業務執行を適切に監督する義務のことです。たとえば、従業員によるパワハラや情報漏洩といったコンプライアンス違反を防止する体制の整備、問題発生時は適切な対応をしなければなりません。
取締役は、内部統制システム構築の義務を負います。業務の適正のために体制を整備する責任であり、特に大会社においては会社法で義務付けられています。内部統制システムには財務報告の信頼性確保や法令遵守体制の整備、リスク管理体制の確立などが含まれます。たとえば、従業員の不正行為をチェックする体制や、問題が発覚した際に迅速に経営陣へ報告が上がる仕組みなどがあげられるでしょう。システムの構築を怠り、企業に損害が発生した場合は、取締役の善管注意義務違反が問われる一因となります。
取締役の義務として、報告義務もあげられます。会社法第357条に基づき、取締役は会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したとき、直ちに監査役や監査役会に報告しなければなりません。たとえば、特定の事業部門で重大なコンプライアンス違反の兆候を掴んだにもかかわらず、報告せずに放置したとします。その結果、問題が深刻化して会社が大きな損害を被った場合、善管注意義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。
善管注意義務違反と判断される要素の一つに、法令違反があります。取締役は、会社法をはじめとする各種法令を遵守して業務を遂行しなければなりません。インサイダー取引や独占禁止法に抵触するカルテル、環境規制への違反など直接的に会社の信用や財産に損害を与える行為は、明白な義務違反です。取締役には自社の事業に関連する法令を理解し、社内で遵守される体制を確保する注意義務があります。法令違反が発覚すれば、企業が行政処分を受けるだけでなく、関与した取締役個人も損害賠償責任を負う可能性があります。
善管注意義務違反と判断される要素の一つに、経営の判断ミスがあります。ただし、すべての失敗が責任追及に繋がるわけではありません。裁判所は「経営判断の原則」という考え方を採用しており、判断の過程が合理的であったかを評価します。「判断当時に得られた情報に基づき」、「企業の利益を信じて」、「合理的な調査や検討を尽くした」うえでの判断であれば、責任は問われない傾向にあります。逆に言えば、十分な情報収集を怠ったり、個人的な利害で判断を歪めたりした場合は、たとえ善意であったとしても義務違反と認定される可能性があります。
善管注意義務違反と判断される要素に、監督義務の放棄があります。特に、従業員の不祥事に対する経営陣の対応は厳しく評価されるでしょう。たとえば、ある企業でパワハラが常態化しているとの内部通報が取締役会に複数回寄せられたにもかかわらず経営陣が業績への影響を懸念し、静観したとします。被害社員が精神疾患を患い提訴した場合、裁判所は会社の安全配慮義務違反だけでなく、通報を放置した取締役個人の監督義務違反を認定する可能性があります。
善管注意義務違反と判断される要素に、利益相反取引の承認を怠ることがあげられます。利益相反取引とは、取締役が自己または第三者の利益のために、会社の利益を犠牲にする可能性のある取引です。たとえば、取締役が代表を務める別会社から、市場価格より著しく高い価格で商品を仕入れる契約などが該当します。こうした取引を行う際に、取締役会でその取引に関する事項を開示し、承認を得なければなりません。承認手続きを経ずに行った取引によって会社に損害が生じた場合、会社法第356条の利益相反行為に該当し、損害賠償責任を負う可能性が極めて高くなります。
善管注意義務違反と判断される要素に、第三者に対する過失があります。会社法第429条第1項は、役員が職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。たとえば、粉飾決算を黙認し、虚偽の財務諸表に基づいて融資した金融業者が損害を被った場合は、会社への任務懈怠責任とは別に、個人として賠償しなければなりません。経営判断の結果が、取引先や顧客、投資家といったステークホルダーに与える影響を考慮に入れる必要があります。
善管注意義務に違反した際に起きるリスクに、損害賠償請求があります。会社法第423条に基づき、取締役の任務懈怠によって会社に損害が生じた場合、会社はその取締役に対して損害の賠償を請求します。請求は、株主代表訴訟という形で、提起されるケースも少なくありません。賠償額は、義務違反行為によって会社が被った損害額で、時には数億円規模に達することもあります。たとえば、ずさんな調査で価値のない企業を高値で買収し、多額の減損損失を計上した場合、買収額と適正価値との差額分の賠償を求められる可能性があります。
善管注意義務に違反した際に起きるリスクに、契約の解除要求があります。契約解除要求は、取締役が自己の利益のために会社を裏切って結んだ、著しく不利益な契約に対して、会社が効力を法的に否定する権利行使です。契約の存在そのものを根本から覆す主張であるため、取引相手との深刻な法的紛争に発展することは避けられません。結果として企業の対外的な信用は完全に失墜し、今後の事業運営や資金調達にも悪影響を及ぼしかねない、事業基盤そのものを揺るがす重大なリスクです。
善管注意義務違反を起こさないための対策として、利益相反取引の際に承認を取ることがあげられます。会社法で定められた手続きを遵守することで、取締役は自身の身を守ることができます。承認を得る際には、取引の当事者、内容、取引が会社にとって不利益でない理由などを客観的な資料に基づいて説明します。承認を得るだけでなく、審議の過程の議事録を作成しましょう。後日、その取引の妥当性が問題となった際に、適切な手続きを経て判断されたことを示す証拠となります。
善管注意義務違反を起こさないための根本対策は、違反行為そのものを発生させない企業体制の整備です。法務部門やコンプライアンス部門の機能強化、実効性のある内部通報制度の運用などがあげられます。また、個人的な損害賠償請求といった法的責任を追及された際の防御策として、取締役会での懸念表明は議事録へ正確に記載するよう求めましょう。加えて、従業員の不祥事報告は調査プロセスと結果を時系列で記録に残します。客観的な記録は、自身の判断の合理性や、監督者として過失がなかったことの証明になります。
善管注意義務違反を起こさないための対策として、契約内容を事前に細かく決めておくことがあげられます。取締役には契約のリスクを精査する注意義務があり、曖昧な契約を承認する行為がその義務を怠ったと見なされるからです。契約内容の不備が原因で会社に損害が生じた場合、承認判断そのものが責任追及の対象となりえます。契約書には委託業務の具体的な範囲、達成すべき品質水準、報告の様式、問題発生時における責任の所在などを、可能な限り詳細に明記しましょう。弁護士など専門家に、自社では見落としがちな法務リスクを洗い出すことが必要です。
善管注意義務違反を起こさないための対策として、ひとりひとりが業務責任を認識する仕組みを作ることがあげられます。取締役の監督義務は、従業員が適切な業務執行を行う環境整備も含みます。たとえば、パワハラなどのコンプライアンス違反を防ぐためには、全従業員を対象とした定期的な研修の実施が不可欠です。どのような行為が違反にあたるのか、違反した場合の懲戒処分などを周知しましょう。研修の実施記録や参加者リストを保管することで、会社として対策を講じていた証拠となります。
善管注意義務を正しく理解して遵守しましょう。善管注意義務とは、単に問題を起こさないという消極的なものではありません。単に法令違反をしないといった消極的なものではなく、会社の企業価値を最大化するため、経営の専門家として最善を尽くす責務を意味します。情報を集めて合理的な判断を下し、従業員の業務を適切に監督することが必要です。本記事で解説した具体的な対策を参考に、自社のガバナンス体制に脆弱な点がないかを見直してみてください。法的リスクへの不安を、より良い企業統治を推進する力へと変えていくことが求められます。
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