人権デューデリジェンスとは【日本政府の取り組みは?企業は何をしたら良い?わかりやすく解説します】

記事更新日:2024年05月14日 初回公開日:2024年05月14日

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グローバル化の躍進とともに、企業は世界中に調達網や販売網を拡大しています。そのような状況下において、「人権デューディリジェンス(人権DD)」と呼ばれる「事業における人権リスク」が注目されています。日本では馴染みが少ない奴隷制度は、現代においても海外では頻繁に行われており、大きな問題を抱えているのです。労働者不足に困窮する日本でも、海外からの労働者は増加傾向にあり、不当な扱いを受けている人も少なくありません。ここでは、「人権デューディリジェンス」の意味から、各国の状況および実施方法などを詳しく解説いたします。

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人権デューデリジェンスとは

企業が人権侵害リスクを軽減するための継続的なプロセスのこと

人権デューデリジェンスとは、企業が人権侵害リスクを軽減するための継続的なプロセスのことを言います。企業活動の中で、強制労働やハラスメント等による人権侵害がないかを調査し、リスクが存在すれば内容を分析して対策を実施することです。対策をすることで人権侵害リスクを抑制し、個人に影響を与える前に問題の芽を摘み取ります。このプロセスを継続することにより、「負の影響」と呼ばれる人権侵害のリスクを事前抑制するとともに、情報を開示して正しい企業活動を報告するものです。

人権リスクとは

人権リスクとは、企業が行う事業活動の中で、従業員を始めとするステークホルダーの人権を、直接的あるいは間接的に侵害しかねない危険性のことです。代表的な具体例として、奴隷のように強制労働を強いる行為や、賃金の不払いや法で定められた以上の違法残業などが挙げられます。他にも、外国人労働者のパスポートなどを企業側が強制的に預かることなど、企業が第三者である従業員等の人権侵害を助長すると見なされる行為全般を含むものです。

人権デューデリジェンスが注目される背景

企業がグローバル化している

人権デューデリジェンスが注目される背景には、企業のグローバル化が急速に進行していることが大きく関与しています。高度成長期に先進国の消費者が質の良い商品を安く手に入れられるのは、グローバル化の恩恵であると言われていました。しかし、その裏には劣悪な環境で働く労働者の姿があり、1970年代に起きたオイルショックによって更に状況は悪化します。この頃より企業活動が社会にもたらす「負の影響」が注目され、国際的な視点からグローバル企業に対し、責任ある行動が求められるようになったのです。

人権デューデリジェンスの歴史

1980年代に国連で議論され始める

世界的な経済の発展は、人々の生活を便利で豊かなものに変えることに成功したかに見えましたが、その背景には前述のような「負の影響」が隠されていました。これらが少しずつ明るみに出るとともに、1980年代には国連で「ビジネスと人権」について議論され始めるようになります。グローバル化は更に進み、2008年には国連事務総長が中心となって策定したラギーフレームワークと呼ばれる、人権デューデリジェンスの基本的な考えが発表されました。

2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択

2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されました。この指導原則は「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱で構成されています。その後もグローバル化の勢いは衰えず、日本でも欧米には遅れながらも人権デューデリジェンスへの取り組みが進められるようになりました。2020年には、「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)が策定され、政府が取り組む施策や企業活動における人権デューデリジェンス促進の内容が明記されています。

人権デューデリジェンスに関する各国の法制化の動き

イギリス

イギリスでは、2015年3月に現代奴隷労働や人身取引に関する法的執行力の強化を目的とした「2015年現代奴隷法」を制定し、同年7月末に施行されました。日本では奴隷制度などは過去のものと思っている人も多いかもしれませんが、奴隷制度は現在も世界中で行われているのです。2015年10月よりはサプライチェーンから奴隷排除を行うため、一定規模の営利団体および企業に対し、奴隷制度や人身取引が行われないように働きかけています。

フランス

フランスでは、2017年3月に「親会社および発注企業の注意義務に関する法律(注意義務法)」が施行されました。これは、フランス国内で直接または間接的に関わる従業員数5,000人以上を雇用するサプライチェーンを含む企業などに対する、人権および環境デューディリジェンスの義務付けになります。当初は世界中からパイオニア的な法制であると注目されましたが、違法性や罰則の定義が明瞭でないため、曖昧な罰則条項は削除され遵守する企業も少ないのが実情です。

ドイツ

ドイツでは、2011年6月に「Lieferkettengesetzes(LkSG)」と呼ばれる、サプライチェーン・デューディリジェンス法が制定されました。この法律は、3,000人以上の従業員を雇用するドイツに主要な事業所を置く企業に対し、人権侵害や環境破壊のリスクを防止し軽減するためのものです。デューデリジェンス措置を開示することを義務付けたこの法律は、2023年1月1日より施行されました。2024年からは対象を1,000人以上の従業員に変更し、法律の適用範囲を広げています。

アメリカ

アメリカではカリフォルニア州において、「カリフォルニア州サプライチェーン透明法(CTSCA)」が、2012年1月1日より施行されました。CTSCAとは、企業に対して奴隷制や人身売買などを抑制する取り組みを直接要求する法律ではありません。企業のサプライチェーンにおける奴隷制や人身売買への取り組みを消費者などに開示することで、購入などの意思決定する際に考慮材料にすることを目的とするものです。消費者に選択権を与えることで、企業の不法行為を抑制します。

日本における人権デューデリジェンスの現状

企業の実施割合は約1割にとどまる

日本における人権デューデリジェンスを世界と比較すると、日本企業の実施割合は約1割にとどまっており、大きく後れをとっています。日本では少子高齢化と人口減少に歯止めがかからず、労働人口が減少している状況です。労働力補強のために海外から人材を獲得する企業は増加傾向にあり、日本企業も早期の人権デューデリジェンス施行が求められています。企業の半数近くからは「実施する予定がない」との声も聞こえますが、残った約半数の企業からは「実施中」または「実施予定」との回答を得ています。

人権デューデリジェンスに関する日本政府の取り組み

人権デューデリジェンスガイドライン

日本政府は、2022年に人権デューデリジェンスガイドラインとなる「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。ただし、このガイドラインには法的拘束力がないため、企業へ人権デューデリジェンスの実施を促す程度にとどまっています。ガイドラインに強制力はないものの、企業の人権デューデリジェンスへの関心が高まっているのは現実です。また経済産業省では2023年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」という、取り組みへの参照資料を公表しています。

中小企業のための人権デューデリジェンスガイドライン

日本政府は、2022年9月に人権デューデリジェンスガイドラインとなる「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。ただし、このガイドラインには法的拘束力がないため、企業へ人権デューデリジェンスの実施を促す程度にとどまっています。ガイドラインに強制力はないものの、企業の人権デューデリジェンスへの関心が高まっているのは現実です。また経済産業省では2023年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」という、取り組みへの参照資料を公表しています。

経済産業省の推奨する人権デューデリジェンスの具体的な進め方

人権リスクを特定し評価する

日本政府では前述の人権デューデリジェンスガイドラインの公表に先立ち、2022年2月に「中小企業のための人権デューデリジェンスガイドライン」を公表しています。同ガイドラインには、日本に最も多く存在する中小企業の取り組み事例などが多数記載されています。また、人権方針の具体例や業種別人権リスクの例が書かれており、これから人権デューデリジェンスに取り組もうという中小企業に参考となる内容となっています。中小企業においても人材確保が難しくなることは間違いなく、グローバル化に対応した中小企業の在り方を知る良い機会になるでしょう。

リスクが重大な事業領域を特定する

全工程におけるリスクの洗い出しが終わり重複などを除き整理したら、リスクが重大な事業領域を特定しましょう。リスクの重大さは「深刻度」と「発生する可能性」の2つの軸を用いて判断します。そして最も重大なリスクが発生する事業領域を見極めたうえで、各工程の中で人権に対する負の影響がどのようなかたちで発生しているかを特定してください。また自社にどのように関わり、どの程度の影響を与えているのかも判断します。事業領域が限られた小規模企業では、この過程を省くこともあるのでご注意ください。

対応を優先順位づけする

対応の優先順位づけは非常に重要な作業です。順序が変わることで後回しになってしまい、対応が遅れて問題が大きくなることがあるため、慎重に行ってください。前述のように「深刻度」と「発生する可能性」の2つの軸を用いて重要度を測定し、優先順位をつけていきます。加えて、負の影響が与える人権の規模やリスクによって影響を受ける範囲、救済困難度なども考慮にして対応順位を判断してください。これらは、被害者の状況や人権侵害リスクの重大性や、影響を受ける大きさなどを判断する材料です。

人権侵害の防止や軽減措置を取る

人権リスクを特定し対応の優先順位が決まったら、人権侵害の防止や軽減措置を取る行動に移行します。企業が人権リスクを防止および軽減するために取るべきアプローチは様々です。多くの企業が実施している代表的な取り組みは、「教育および研修の実施」「社内制度や設備の整備」「サプライチェーンの管理」などで、組み合わせて行うのも良い方法です。サプライチェーンの管理では外部も巻き込むことになるため、ともに企業を良くしていこうという姿勢を共有することが大切になります。

取り組みの評価や外部への説明をする

一連の作業が終わったら、取り組みの評価や外部への説明をするようにしましょう。人権デューデリジェンスの問題は一過性のものではないため、継続的に施策を行うことが重要になります。そのため、1つのサイクルが終了したら、取り組みを振り返って得られた効果などを分析し、次のサイクルに活かしましょう。また、企業は人権の負の影響への対処方法に関する情報を1年に1回以上の頻度で公表することが求められています。公表の方法は企業のホームページに掲載するなど様々ですので、都合の良い方法で情報開示してください。

まとめ

人権デューデリジェンスへの理解を含め企業の人権リスクをなくそう

人権デューデリジェンスという言葉は日本ではあまり聞くことはありませんが、企業が人権を侵害する行為は行われており、度々問題として取り上げられています。企業が外国人に適切な賃金を支払わないことや、ひどい場合には未払いのこともあるようです。労働人口減少に伴い、日本で働く外国人は増加傾向にあり、日本の企業も外国人労働者への理解を含める必要があります。ぜひ、この機会に人権デューデリジェンスへの理解を深め、企業の人権リスクをなくすように努力しましょう。

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