EPA介護福祉士候補者とは?【目的や受け入れ施設の要件など】

記事更新日:2020年10月30日 初回公開日:2020年10月20日

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近年、日本では少子高齢化により慢性的な人手不足となっています。その中でも介護業界では、もっとも深刻な状況と言えるのではないでしょうか。今後ますます高齢化社会が進み、労働人口が減ると日本はどうなってしまうのでしょうか。そこで今注目されているのが、外国人介護人材の存在です。外国人が介護人材として働くには、いくつかの制度があります。ここでは、その制度のうちの1つであるEPA介護福祉士についてとりあげます。EPA介護福祉士候補者受け入れの背景から、介護福祉士になるまでの流れと、その後のゆくえを見ていきたいと思います。

EPA介護福祉士候補者とは

EPAとは技術移転を目的とした経済連携協定のこと

EPAとはEconomic Partnership Agreementの略で、経済連携協定のことです。2以上の国の間で、「物品」だけでなく「人」や「お金」の移動に関しての制限をなくし、経済の結びつきを強くする目的で行われています。ここでいう「人」は、技術移転を目的としています。技術移転とは、看護や介護などといった技術を持っている人が別の組織へ移動し、普及させる活動のことを言います。EPA介護福祉士の制度は日本と2国間で結ぶ協定で、特例的に行われています。

EPA介護福祉士候補者とは国家資格取得を目指す外国人のこと

「EPA介護福祉士候補者」とは、この制度を用いて日本で介護福祉士の国家試験取得を目指す外国人の事です。日本で介護の知識や技術を学び、自国へ帰ってそれを役立てることが目的で、日本の人材不足解消のための制度ではありません。今現在、介護の分野でインドネシアとフィリピン、ベトナムの3か国から受け入れしており、その数は年々多くなっています。日本入国前後に日本語と介護について学び、施設での実習をへて4年後に国家試験を受けます。

EPA介護福祉士候補者受け入れの背景

インドネシアとフィリピンに加えベトナムからの受け入れ

日本がはじめてEPA介護福祉士候補者を受け入れたのは2008年のことです。最初はインドネシアのみの受け入れでしたが、翌年にはフィリピン、そして2014年にベトナムの受け入れも始まりました。日本国内で受け入れ調整を行う機関は、公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)のみで、候補者のあっせんから受け入れ調整、業務支援全般を行っています。技能実習が民間の複数の管理団体を通して行われているのと比べると、ここに大きな違いがあるでしょう。

介護福祉候補者の人数

制度を開始した年は、インドネシアから104名の介護福祉士候補者の受け入れがありました。その翌年はインドネシア189名に加え、さらにフィリピンから190名を受け入れ、合計379人と一気に増加しました。その後数年は200名以下と少なかったのですが、2014年にベトナムが加わり、それ以来受け入れの数は急激に増加しています。2019年8月末の時点で、過去累計で5026名のEPA介護福祉士候補者を受け入れたことになります。

EPA介護福祉士候補者になるための要件

インドネシアとフィリピンのEPA介護福祉士の要件

実際にEPA介護福祉士候補者になれるのはどんな方なのでしょうか。本人が希望したからといって、誰でもなれるわけではありません。また国によって要件が少しずつ違っているので、注意が必要です。インドネシアでは高等教育を卒業していることに加え、政府による介護士認定を受けている、または看護学校を卒業していることが要件となっています。フィリピンでは4年制大学卒業と政府からの介護士認定、または看護学校を卒業している必要があります。もともと自国で介護や看護の仕事に従事していた方が多くみうけられます。

ベトナムのEPA介護福祉士の要件

ベトナムはインドネシアやフィリピンとは違い、看護課程修了に加えて12カ月の日本語研修を受ける必要があります。日本語能力試験でN3以上を取得して、ようやく施設とマッチングをすることができます。日本語能力試験とは、N1からN5までのレベルがあり、N1が最も難しくN3は日常的な日本語を読んだり聞いたりできるレベルです。インドネシアやフィリピンの方はN5以上合格で日本に送り出されるのに対し、ベトナムはN3以上ないと送り出されないため、ベトナムの方の日本語のレベルはとても高いです。

EPA介護福祉士候補者の受け入れ施設の要件

介護福祉士養成施設と同等の体制が整備されている

またEPA介護福祉士候補者を受け入れる施設側には、どんな要件が必要でしょうか。まずひとつとして、受け入れ施設は介護福祉養成施設の実習施設と同等の体制が整備されていなくてはなりません。介護福祉養成施設とは、介護福祉士になるために必要な技術や知識を学ぶことができる施設です。厚生労働大臣指定の四年制大学や短期大学、専門学校などがそれにあたります。設備だけではなく国家試験合格のための環境を整えなくてはなりません。

介護職員の員数と資格が基準を満たしている

受け入れ施設では定員が30名以上であることが大前提となります。そして常勤介護職員の4割以上が介護福祉士の資格を持っていることが条件です。なぜなら、EPA介護福祉士候補者を指導するにあたって、しっかりと指導できる職員が必要だからです。そして、施設が過去3年間に虚偽の求人申請などの不正行為を行っていた場合は受け入れることができません。それに加え、報告の拒否や遅延、巡回訪問の際に協力を拒んだことがある場合も受け入れられない要件となります。

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EPA介護福祉士候補者受け入れまでのながれ

マッチングのあと事前研修と日本語研修を実施

インドネシアとフィリピンで要件をみたした方は、受け入れ施設とマッチングし、自国で6か月の日本語研修を受けます。そこで日本語の基礎を学び、日本語検定N5程度ができるようになった方だけが入国できるのです。また、日常で使う日本語だけでなく介護にかかわる言葉を身につけます。それに加え、仕事や生活をするうえで困らないよう、日本の文化や習慣、マナー全般を学ばなければなりません。ベトナムに関しては、マッチングの前にN3以上を取得していることが条件のため、マッチングが成立すれば日本へ入国することができます。

EPA介護福祉士候補者日本入国後のながれ

6か月間または2.5カ月の日本語研修と介護導入研修を実施

インドネシアとフィリピンの介護福祉士候補者は日本へ入国後6か月間、研修施設で宿泊しながら日本語研修と介護導入研修を受けます。ここでの研修は、日本の生活に慣れるためのステップとなります。その間に、就労ガイダンスで施設の方と打ち合わせをしたり、これから働くための準備をしなくてはなりません。ベトナムに関しては、介護の専門的な日本語の研修と介護導入研修、社会文化適応研修を2.5カ月間で行います。ベトナムの研修期間は短く思われますが、自国でしっかり日本語を学んできているため、国家試験ではよい成績を収めています。

4年間介護施設で就労と研修

6か月の研修期間が終わると、今度は受け入れ施設で実際に働きながら介護の専門知識や技術の習得をします。具体的には、食事や排せつ、入浴の補助や身仕度の手伝いなどといった介護と、介護記録や日報を書いたりといった事務仕事を覚えます。それと同時に、日本語の勉強もしていかなければなりません。1年の就労期間を3回延長更新できるので、最大4年間働くことができます。また、国家試験を受けるためには実務経験が3年以上必要となるため、それ以降でないと受験できません。

国家試験受験

介護福祉士の国家試験は、もちろん日本語で受験しなくてはなりません。介護の専門用語は日本人の私たちにとってもわかりづらく、外国人にとってはかなり難解なものとなります。そこで言葉のハンディキャップを減らすために、外国人に配慮した問題に変更されました。試験問題の漢字にふりがなをつけたり、難解な表現はわかりやすい日本語に書き換えられました。また、試験時間も一般の受験者より1.5倍長くとるという配慮がされています。これにより、外国人の受験者にも取り組みやすくなりました。

国家試験の実技

また、介護福祉士の国家試験では実技試験も行われます。「介護技術講習」または「介護福祉士実務者研修」を受けると、実技試験は免除されます。しかし、時間とお金がかかるため受講するEPA介護福祉士候補者はあまりいません。実技試験は、5分という制限時間内に介護に関する専門技能が試されます。「安全、安楽」「個人の尊厳」「自立支援」をもとに、介護に必要な動作ができるかがポイントになります。総得点のうち60%以上を取らないといけません。実際に現場で働く時に使う実践的な内容のため、技術としてしっかり身につけておく必要があります。

EPA介護福祉士候補者の国家試験

EPA介護福祉士候補者の国家試験人数

2020年に行われた介護福祉士国家試験は、全体で84032人が受験し、合格者数は58745人でした。そのうち、EPAの介護福祉士候補者の受験人数は758人で、337名が合格しました。これで、今までに合格したEPA介護福祉士候補生の総合計は1322人になりました。全体でみると受験者自体はかなり減っています。これは受験資格が厳格化され、日本人の受験者が激減したためです。逆にEPA介護福祉候補者は、年々増え続けています。それにより合格者の数も増加傾向にあります。

EPA介護福祉士候補者の国家試験合格率

それでは、介護福祉士国家試験の合格率をみていきましょう。2020年に行われた国家試験のEPA介護福祉候補者の合格率は44.5%でした。各国でみるとインドネシアは36.5%、フィリピンは29.4%に対して、ベトナムは90.8%もの合格率でとても高い数値でした。ベトナムは入国前に日本語能力が高くないと日本に入国できないため、日本語能力の点で他の国と大きく差がついたのではないかと思われます。この数値は、日本人を含めた全体の合格率69.9%を上回っており、その能力の高さは驚くべきものです。

EPA介護福祉士の転職

国家資格を取得した者はEPA介護福祉士として就労できる

国家試験で合格したEPA介護福祉士候補者は「特定活動(EPA介護福祉士)」という在留資格で日本に残ることができます。資格取得後は、3年間無制限に更新し働くことができるのです。また、2020年4月から、在留資格「介護」に変更することもできるようになりました。この在留資格は最長で5年間働くことができ、こちらも更新が可能です。どちらの在留資格も日本に家族を呼ぶことができます。国に家族をのこしてきた外国人にとって、それは国家試験合格の強いモチベーションとなっていることでしょう。また、他の施設への転職も可能になります。

国家試験に落ちても「特定技能」に移行できる

国家試験が2回不合格だったEPA介護福祉候補者は、今までは帰国を余儀なくされていました。2019年5月からは制度が変わり、介護福祉士国家試験で合格基準点の5割以上をとり、すべての科目で得点があれば「特定技能」という在留資格に変更して働けることになりました。「特定技能」は深刻な人手不足解消を目的として作られた在留資格です。EPA介護福祉士候補者はもともと介護士の知識や経験があり、日本語能力も高いため介護業界で活躍できる人材だと判断されたためです。これにより、日本に残って働きながら、次の国家試験を受けることもできます。

まとめ

EPA介護福祉士になるまでとその後

EPAは、本来人手不足解消のための制度ではありません。しかし、もともと介護の知識や経験があり、さらに4年間日本でしっかり日本語と介護の技術を学び、現場で実習を積んできた人材は大変貴重です。それが国家試験という高いハードルのために、日本で働きたい外国人が帰国せざるをえなかったのです。しかし、制度の変更で「特定技能」という在留資格ができ、日本で働きながら再度国家試験を受けるチャンスが得られるようになりました。介護の人材不足が加速する中、長く日本で働ける外国人介護士が増えることは、私たちにとってもプラスとなることでしょう。

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