トロッコ問題とは【注目されている理由や問題例、考え方などについて解説します】

記事更新日:2023年04月07日 初回公開日:2023年04月03日

AI技術などの進歩に伴い自動運転などが現実味を帯びる中で、50年以上も前に発表された「トロッコ問題」という倫理学上の課題が再注目されています。トロッコ問題とは暴走したトロッコ列車の先には5人の作業者がいて、切り替えレバーを操作することで行き先が変わって5人は助かるが、もう一方にいる一人の作業員は轢死するというものです。もし、あなたが居合わせたなら、どのような行動をとりますかという道徳的かつ倫理的な問題です。ここでは、トロッコ問題の根底にあるものや誕生までのいきさつ、そしてAI技術の進化とトロッコ問題について詳しく解説致します。

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トロッコ問題とは

功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題

トロッコ問題とは行為などから発生する結果を尊重する利己主義と、行為から発生する結果よりも行為をするときの意志や判断から善悪を計る義務論のどちらを選ぶかと言う倫理学上の問題提起です。相対する2つの考え方を、人の命の重さを例にとり、多数の人間の命が危険に迫っているとき一人の命を犠牲にすることは正しいことかと問うものです。トロッコ問題は、状況の変化によっても答えが分かれるものでもあり、善悪の尺度が何から影響を受けるのかも知ることができます。

トロッコ問題は答えのない倫理的な問題

トロッコ問題は宗教の教えがどんな時でも絶対に正しいのかと問うことから始まった、答えのない倫理的な問題です。個人の道徳観や価値観は宗教などに影響を受けるものの、それぞれの考えは全く同じではありません。それゆえに、トロッコ問題には正解が無いとされています。ただし、トロッコ問題と全く同じ状況ではなかったとしても、同様の問題が起こり得るのは事実です。自分がどのような判断をするべきか考えておくことは、悪いことではありません。

トロッコ問題が誕生した理由

イギリスの哲学者フィリッパ・フットの論文から誕生した

トロッコ問題は、イギリスの哲学者であるフィリッパ・フットによって1967年に論文が発表されました。彼女が発表したトロッコ問題は、複数の人間の命と一人の命の重さを比べるかのように語り継がれています。しかし、当初は「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか」という、1対1の問題でした。カトリックでは人工中絶を禁止していますが、母体に大きな危険がある場合にでも、中絶禁止は正義なのかということが問題の発端だと言われています。

二重結果論に基づいて誕生した

トロッコ問題は彼女が発表した「中絶問題と二重結果論」という論文の中に多数ある例題の1つです。二重結果論とは人が意図するかしないかで善悪を判断するものです。人間の行為において責任を取るべきは意図したことであり、結果は予想できても意図したものでなければ責任を負う必要はないという考え方です。また、助けようとする「積極的な義務」と、傍観しようとする「消極的な義務」の2つの義務のジレンマに基づく代表例として、トロッコ問題が特別視されたと言われています。

トロッコ問題が注目されている理由

先端技術の活用に倫理上の問題が浮上しているため

トロッコ問題が再注目されている理由に、先端技術の開発により技術活用に倫理上の問題が多くあることが挙げられます。例えば医療現場においては、臓器移植の技術が向上し、臓器提供者を待つ患者さんも増えているのが現状です。もし、一人分の臓器によって5人の命が助かるとしたならば、一人を犠牲にすることは善か悪かと問われても簡単に答えを出す事はできません。利己主義によれば一人を犠牲にすることは十分に善であると理解できるのに対し、義務論に従えば悪となります。

自動運転技術が発達しているため

医療分野と同様に、運転手不足や人為的なミスを防ぐために、AIを使った自動運転技術も開発途上にあります。自動運転で問題となっているのが、トロッコ問題のような場面に遭遇した場合に、AIがどのように判断するかです。AI自体が考えて結論を出す事は難しく、あらかじめ想定場面と対応をプログラムする必要があります。1人だけを犠牲にして5人を助けるか、それとも通常走行して5人を犠牲にするかという人の命にかかわる問題に、全ての人が納得する答えなどありません。

トロッコ問題の問題例

トロッコ列車についての問題

トロッコ問題には、シチュエーションや部分的に変更したものが多く存在します。最も有名なトロッコ列車は以下のものです。ブレーキの利かなくなったトロッコ列車が線路を走っており、そのまま行けば先にいる5人を確実に殺してしまいます。しかし、自分の前にある切り替え器を作動させれば列車は別方向に走りますが、その先には1人の作業者がいて確実に殺してしまうというものです。5人対1人という問題と、自らが間接的に手をくだすという2つの問題が答えを難しくしています。

歩道橋についての問題

歩道橋の問題では列車が暴走しているのは同じですが、列車の上に歩道橋があり自分の他にトロッコ列車を止められるような大男と二人でいる状況です。自分が巨漢の大男を押して落とせばトロッコは止まって5人が助かりますが、大男は必ず死にます。大男は完全に油断していて押せば必ず落ちる状況にあり、あなたはどのような行動をおこすかという問題です。この問題では大男を自ら落として死なせる行為は悪であると感じる人が多く、トロッコ列車の場面よりも行為に及ぶという人は少なくなります。

ループしている路線の問題

ループしている路線の場合には、状況は似ているものの、人間の心理が大きく変わるので答えも難しく変化しています。トロッコ列車が暴走している状況は同じですが、行き先はループ状となっていて、先に1人の作業者がいて後ろに5人の作業者がいるパターンです。この問題では一人が死ぬことで5人は助かるという前提のもとで成り立っており、もし先にいる一人が上手くよけてしまえば代わりに5人が犠牲になるというものです。どうすべきかではなく、どちらが良い結果であったか考える問題になります。

トロッコ問題で問われることとは

1人の命と5人の命という命の数や重みをどう判断するか

トロッコ問題で問われていることは、人の命の重みをどのように判断するかということです。判断するにあたって、犠牲となる人と顔見知りであるとか、年齢や身体の調子などで判断も異なる事から、関わりのない見知らぬ人たちという前提があります。自分が犠牲になることも選択肢の一つであれば、自らが犠牲となって他人を救うことを美徳と考える人も少なくありません。しかしトロッコ問題ではそれが許されず、犠牲となるのが少数か多数かという結果の選択だけです。

自発的な行動をとるか傍観者になるかというどちらの立場を取るか

トロッコ問題では、犠牲者の多少によって命の重さをはかり判断を下すことが本当に妥当なのかを考えさせるとともに、自分ならどのような行動をおこすかを問われます。自発的な行動をとるのか、責任を回避することも考えて傍観者になるのか、どちらの立場を取るのか二者択一の問題です。自ら行動することは直接犠牲者の発生に関与することになり、その責任は重大です。一方で傍観者となることは、犠牲者が発生することを知りながら、見て見ぬふりをしたという罪悪感に苛まれるジレンマを抱えています。

トロッコ問題の2つの考え方

ベンサムの功利主義

社会の幸福の総量を増大させる行為が道理的に正しい行為であると考える理論

トロッコ問題を考える上で参考になるのがベンサムが唱えた功利主義です。功利主義とは幸福の総量を増やす行為こそ正しいことであるという考え方になります。個人の幸福を足し合わせることで社会の幸福を推し量るものであり、トロッコ問題では当然のように一人の命を救うことよりも5人の命を救う事の方が優先されます。ベンサムが説く功利主義では幸福の質などは度外視して、単純に幸福度を足し算するため、考える時間も短くて済み結果を出すことも容易であることが特徴です。

功利主義のメリット

功利的な行動が前提となるため最大多数の最大幸福を実現できる

功利主義のメリットは、功利的な効果や結果を求める行動が前提となっているため、最大多数の最大幸福が実現できることです。功利主義を唱える哲学者はベンサムの他にも多数いますが、幸福を得ることにこそ善悪を判断する基準があるということでは一致しています。一人でも多くの人を幸福のためにする行為ならば、その手段は厭わないというのが功利主義の極論です。トロッコ問題のようにジレンマを抱える課題では、単純明快でありながらも数的な整合性もあるため、功利主義を判断基準とする人も多くいます。

カントの義務論

社会全体を幸福にするためであっても手段として人を利用すべきではないという考え方

カントが提唱する義務論は、功利主義とは真っ向から対立するものであり、社会全体を幸福にするための行為であっても、そのために人を利用することは悪であるという考え方です。ベンサムの功利主義のように、行為をすることによって得られる結果を重視する帰結主義ではなく、行為をすること自体が道徳的に善であると考えることに大きな違いがあります。そして想定される結果よりも、行為をするまでに生まれる個人の意志や動機が正しいものかによって善悪を判断するものです。

義務論のメリット

人間性への限りない信頼に基づく確固とした規範を提起することができる

義務論の大きなメリットは、目的や結果によって善悪が判断されず、人間性への限りない信頼に基づいているため、揺るぎのない確固とした規範を提起できることにあります。結果や目的によって行為の価値を判断する功利主義に対し、カントが提唱する義務論は行為そのものが行為の価値であるというものです。善悪を足し算などで数値化することなどもなく、より人間味のある考察だと共鳴する人も多くいます。義務論を用いた行為では後になって悔い悩むことも少なく、より人間味のある判断をできるのが大きなメリットです。

トロッコ問題と先端技術の関係性

AIの活用に倫理上の問題が浮上している

現代社会においてAI技術は不可欠なものとなっており、今後も進化を続けることは間違いないでしょう。人間に代わって物事を最適に判断し、行動へと自動的に移行してくれるのは非常に便利ですが、倫理上の問題が多数浮上しているのも事実です。人工知能ではプログラムされたことを判断基準としますが、もし事故などが起きた場合の責任の所在などが危惧されています。たとえば医療現場などで重大な判断の間違いがあったときに、病院側の責任になるのかも不安視される問題の1つです。

AIによるトロッコ問題とは

自動運転車はどのように事故を回避するのかという問題

トロッコ問題に直接つながる自動運転技術の場合にも複雑な問題が生じます。AI技術による自動運転では、トロッコ問題のような状況に遭遇した場合に、どのような事故回避が適切かという問題があります。ここまで書いたように、トロッコ問題には判然とした1つの回答は得られていません。ましてAIの自動運転では、運転者を優先にプログラムが作成されており、それに基づいて行動します。歩行者優先であるにもかかわらず、事故が起きそうな場面でどのような判断を下してしまうのかは、大きな問題と言えるでしょう。

まとめ

AI倫理を考えるためにトロッコ問題について考えよう

AI技術の発展は人口減少などによる働き手不足が深刻化する日本では、必要不可欠なものと多くの人が認識しています。しかし一方で、AIが解決できないであろう、倫理的な問題が浮上しており、解決は急務となっています。倫理や道徳から考えれば大きく意見が分かれることになるのは前述の通りです。トロッコ問題は答えを見つける問題ではなく、人として考えるための永遠の課題とも言われます。まずはAI倫理問題を解決するために、答えの無いトロッコ問題を何度も考察し、代替えのきかない人の命を守る方法を考えていきましょう。

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