記事更新日:2020年12月15日 | 初回公開日:2020年11月12日
用語集 グローバル用語解説 人事・労務お役立ち情報変形労働時間制は、時間や量といった仕事内容に、週や月といった期間でばらつきがある場合を想定した制度です。労働時間が多い予想のときは多めに、少なく見積もられるときは少なめに、といった取り決めを前もってできます。ばらつきに応じて適切な時間を割り振ることができるので、自身の職務の変動にあった形で労働時間を決めることができます。ただし、一定スパンごとに設けられる労働時間の平均は法で定められた基準を超えてはいけません。
変形労働時間制は、繁忙期・閑散期のある職種はうってつけといえるでしょう。仕事が少ないのに規定の時間が長いのはまだよしとしても、忙しくて規定の時間では仕事が終えられないことがわかっている場合は困りものですよね。量に対し必要な時間が割り振られないことになります。これでは、会社にとって非効率であり、従業員としても不満が募る部分があるでしょう。このように、ある程度のスパンで見て労働時間に変動がある場合に有効な、変形労働時間制を採用する余地があるといえます。
変形労働時間制と似た概念として捉えられがちなのが、フレックスタイム制でしょう。いずれも、働き方に合わせて時間を調整するという大枠部分に変わりはありません。しかし、根本的に仕組みが異なります。フレックスタイム制では、変形労働時間制にあったような、一定のスパンはありません。決められた1日の労働時間の中で、始業と終業の時間をずらすことができるという制度です。フレキシブルタイムと呼ばれる、「労働時間分就業していればいつ出社・退社しても可能な時間」の範囲で就業時間をずらすことが可能です。
近年の変形労働時間制の浸透や成熟は、教職の過労問題に契機があるといえるでしょう。変形労働時間制は近年になって広く浸透し制度として確固としてきました。その背景には、ある出来事の存在が挙げられます。その出来事は、過労問題に対して効果的と判断した文科省が変形労働時間制を盛り込んだ提言を発表したことに端を発します。その提言では、長時間労働に対して直接的解決が見込まれず、反対意見が噴出したのです。いくつも巻き起こる問題を背景に、制度が形作られていっている好例でもあるでしょう。
変形労働時間制を制定した政府としての目的は、昨今取りざたされている働き方改革に通ずる部分があるといえるでしょう。もちろん、制度ができた当時その様な言葉は一般的でありませんでしたが、究極的には同じです。近年は特に、ライフスタイルも豊かであることを重視する流れが生まれていますよね。この潮流を踏まえても、様々な職業の形に合わせ、適した働き方ができる制度作りは、永遠の課題でもあります。採用にあたっては、単純な残業代削減といった限られた部分のみへの対処でなく、総合的な職場環境改善の一環として盛り込まれることが重要です。
1週間単位での変形労働時間制は、曜日ごとに仕事量が異なる場合などに労働時間を調整できます。短いスパンの中で労働時間を削減したい場合に採用すべきでしょう。ただ、従業員数が30人未満の小売業、旅館、飲食店のみ利用できます。これは、小規模なサービス業では、お客さんがその日その日で変動するのにスタッフの人数が絶対的に少なく、人の代えが利かないことがあるからといえます。該当する場合はもちろん、独立や転職といった契機において活用の余地がありますね。
1ヶ月単位では、制度を利用すると決めた1ヶ月以内の期間の内、法定労働時間の枠内で特定の週や日の労働時間を策定できます。例えば、月末に多忙になるような職種において活用できるでしょう。月末に仕事の量が多くなる場合、月の中旬までは少なめの労働時間を、月末の週には多めの労働時間を割り振ることができます。そのとき、一般的な業種では期間中の1週間あたり平均労働時間が40時間を超過してしまうと、残業扱いになります。また、上限も設けられていて、1日単位、1週間単位でそれぞれ10時間以内、52時間以内となっています。いずれにも注意して調整しましょう。
1年単位の場合も内実は1ヶ月単位と同様の仕組みで、労働時間を調節できます。1年単位では、設定できる期間が1ヶ月から1年の間に広がります。年末年始やお盆などの休暇期間が繁忙期の場合は有効であるといえますね。1年単位で導入する場合は、長期スパンであるため、細かいルールが存在することを覚えておきましょう。厚生労働省HPからの確認をお勧めします。また、長期スパンであることから、労使協定や労働者への伝達についてもより明確であることが必要です。
変形労働時間制を実際に採用する際の最大のメリットは、仕事の緩急に合わせて必要な時に必要な分だけ労働時間を設定できるという点でしょう。忙しいときもあれば暇なときもあるのが仕事です。とはいえ従来の制度では、そういった繁閑に対し柔軟な対応は困難でした。しかし、ある程度仕事量の変動具合が定まっているならば、変形労働時間制を活用して労働時間を平すことができます。円滑に労働時間削減と同時に経費削減を行い、労使両者ともにいわゆるウィンウィンな効果が期待できますね。
変形労働時間制を用いると、従業員管理においても効率化を図る余地が大いにあります。変形労働時間制では、あらかじめ想定できる仕事の量に応じて、日々の労働時間を計画のうえ設定し、より現実的な労働計画の策定が可能になります。したがって、業務内容とスケジュール進行に対して、より即した計画を立てることができれば、より適切な従業員管理にも繋がります。もちろん、従業員管理のためには、業務の面だけでなく健康や職場環境といった面が関わっていることがあるので、管理に必要な要素を見極めることが何より重要でしょう。
ワークライフバランスとは、仕事とライフスタイルの両方に対してバランスよく時間や労力をかけることで、心身ともに豊かな生活を送ろうとする考え方です。このワークライフバランス達成を目指すに当たって、変形労働時間制は有用といえます。変形労働時間制では、仕事に割かなくても良い時間については削減、時間をより必要とする場合は最初から時間を多めにゆとりを持って設定することができます。したがって、仕事の側からワークライフバランスを考えるとき、変形労働時間制を用いることが一つの選択肢になるかもしれません。
変形労働時間制では、従来の制度に比べて労働時間や給与の算出に煩雑さがあります。そもそも労働時間を新たに組み直すところから労力が必要であるうえ、特に残業時間の算出方法は、若干複雑化します。具体的には、あらかじめ設定した労働時間にばらつきがあるため、残業が法定内か外かについて、より個別の対応が必要となることがいえますね。企業側としては、ゆとりを持った導入をすべきという観点を持って対応し、導入に際しての労力コストを抑えることが課題だといえます。
社員には変形労働時間制の採用をしっかりと周知する必要があります。単に、新しい制度を利用して変化が起きるからだけではありません。有給取得における不均衡は、周知が重要となる大きな要因といえるでしょう。変形労働時間制を採用している限り、制度に基づく規定の労働時間が長い日や週は必ず生じます。労働時間が長い期間を有給に回す傾向が出てくることもありえます。利己的に騙し取ってやろうという考えがないとかったとしても、不均衡が生じることを念頭に置いておきましょう。
変形労働時間制導入にあたり、まず必須な事項が勤務状況の確認と、進行プランの決定です。どうして重要なのかというと、運用する際の骨子の部分にあたるからです。勤務状況の確認は、背景の理解を意味します。残業が多い週や期間を特定するからこそ、時間配分を調節できるといえますよね。進行プランの決定は、労働時間の適正化を実行するにおいて必要であることにとどまらず、労働基準監督署に届け出て、正式な運用を行うにあたっても必須です。
労働者側と企業側において取り決めを行うことになるので、就業規則の決定やそれに伴った協定の締結を行なわなければなりません。取り決めの概略は、常に雇用している労働者の数が10人以上か未満かで場合分けされます。10人以上の企業では、就業規則の作成が必要で、就業規則(変更)届を労働基準監督署に提出する必要があります。10人未満の場合は、労働基準法には就業規則作成の必要なしですが、両者合意の上の労使協定締結もしくは就業規則に従った書面作成によって、変形労働時間制を導入できます。その際は、周知の必要があります。
就業規則の決定や労使協定の締結といった、労働契約について直接関わる部分には、労働基準監督署への届け出が必要になります。届け出の際、残業や休日出勤が起こりうる場合には、同時に36協定を提出し、残業の協定において生じたずれを改めておきましょう。このとき、就業規則は変更があり次第届け出が必要であること。また、就業規則と少し異なり協定の場合は有効期限が到来する前に改めて提出の義務があることを覚えておきましょう。
変形労働時間制の導入に際しては、社内に周知を行う必要があります。これまでと変わってくる部分ゆえ、食い違いがあれば不和の原因になります。労働者については、違いに適応してもらうと同時に、運用が適正かどうかを定期的にフィードバックしてもらい、より良い環境へと繋げましょう。経理部門にとっては、若干仕事が煩雑になる分、遅滞や誤認を防ぐ余裕を担保しておきましょう。また、流れに不備がないかどうかはもちろん、制度の内容を大まかに捉えておくようにしましょう。
労働状況の適正化のための施策とはいえ、一度目の計画策定だけでは、まだ改良の余地があるかもしれません。いわゆるPDCAサイクルにおけるAつまりAct、意図のある行動の部分を行なうことになります。給与や労働計画の適正性を保ち続けることに加え、労働者側からのフィードバックに基づいた改善はをしっかりと行いましょう。また、俯瞰的に見て不正が存在していないか、という監査も重要です。これまでと異なることを認知した上で運用し、適宜修正していきましょう。
変形労働時間制を採用するにあたっては、自社事業の職務特性をまずは精査しましょう。そして、果たして総労働時間の削減が行われ、心身のゆとりが成立する特性になっているのかどうか、という点をまず第一の基準として選ぶことが望ましいといえます。必要な手順を踏んで法的に適正な手続きをしていることや、不正が発生していないかどうかをチェックしていくことも重要です。そして何より労働者にとって有意義な計画がなされているのか、という視点を持ち、職場環境改善に役立てていきましょう。
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