記事更新日:2022年11月30日 | 初回公開日:2022年11月30日
用語集 グローバル用語解説 採用・求人のトレンド 人事・労務お役立ち情報スキャンロンプランとは、企業の売上高に応じた賃金総額管理の手法です。従業員の賃金総額を企業の売上高の変動に応じて決定するものです。過去の実績に基づいて売上高に対する人件費の比率を固定し、この標準人件費率にその期の売上高を乗じて賃金総額を算出します。そして賃金総額と実際に支払った賃金との差額を奨励金や賞与として分配します。売上に応じて合理的に人件費を管理することが可能となるのです。日本では主に成果配分の考え方として捉えられ、賞与原資の決定に用いられてきました。
スキャンロンプランはアメリカから導入された考え方で、生産性向上を目ざす労使協力制度です。アメリカ鉄鋼労働組合幹部やマサチューセッツ工科大学講師などの経歴をもつジェセフ・スキャンロンによって提唱されました。従業員ひとりひとりの能率を刺激するというよりも、むしろ集団としての能率を刺激するチームワーク・インセンティブな手法だと指摘されています。日本では採用している企業はあまりありませんが、アメリカでは中小企業を中心に広く普及している考え方なのです。
企業業績の判断基準には売上高や利益、付加価値などの指標が使われますが、スキャンロンプランでは売上高を基準にして従業員の賃金総額を管理します。スキャンロンプランにおける計算方法では、売上高に対する人件費の割合に一定の比率を設けるというのが特徴となっています。この比率を標準人件費率と言います。労使間で、過去の売上高と人件費の実績をもとに標準人件費率を設定します。売上が上がると総人件費が増加し、売上が下がると総人件費が減少するという形になります。
スキャンロンプランでは、標準人件費率に売上高を乗じて賃金総額を算出します。企業の売上高の変動に応じて従業員の賃金総額を決定するという、賃金総額管理の代表的な手法です。賃金総額と実際に支払った賃金との差額を奨励金や賞与として支払うことで従業員に還元、分配します。売上に応じて合理的に人件費を管理することが可能となります。日本においては成果配分の手法とされ賞与原資の決定に広く用いられてきましたが、制度として採用している企業は少ないのが現状です。
売上の増加により人件費率が下がった場合や、コスト削減により生産性が向上した場合には、標準人件費率に売上高を乗じたものから支払い済みの人件費を差し引いて賞与を算出します。これにより賃金の公平性を求めようとするのがスキャンロンプランの考え方なのです。人件費比率が決まっていることによっての報酬の上昇率がわかりやすいという特徴があります。一方売上高ばかりを重要視してしまい、経費を軽視しがちになるところがスキャンロンプランのデメリットと言えます。
スキャンロンプランが売上高の実績に基づくのに対し、ラッカープランは売上高から経費を差し引いた付加価値をもとに従業員の賃金総額を決定します。ラッカープランでは付加価値に対する賃金総額の割合をあらかじめ決めておき、この標準労働分配率に付加価値額を乗じた賃金総額と実際支払った賃金の差額が賞与となります。標準労働分配率は、過去の労働分配率に基づいて労使間で設定します。ラッカープランもスキャンロンプランと同様、日本では賞与原資の決定に用いられています。
ラッカープランは付加価値を基準とすることで、売上高だけでなく経費の削減も賃金に影響する点が特徴です。付加価値に応じて賃金総額を決定するので、スキャンロンプランと同様に賃金の過払いを回避できます。付加価値は売り上げから経費を引いたものなので、従業員は売り上げを伸ばすだけでなくコストの削減にも注目するでしょう。そのため、より直接的に企業の利益創出につなげられるのです。一方コストの削減を重視しすぎると、新たな取り組みに対して消極的になる場合があります。
日本においてはラッカープランが用いられる場合が多くなっています。付加価値は労使の努力と協調によって会社全体で生み出した価値です。企業業績の基準としてふさわしい経営指標でしょう。また、売上高が増加しなくても、コスト削減により付加価値が増えることで賃金総額や賞与は大きくなります。従業員に生産性の効率化を意識づけ、モチベーションアップにつながります。このようなことから、ラッカープランの方が賃金管理の手法として優れているとみられる傾向があるのです。
スキャンロンプランを導入するメリットの一つに、社員のモチベーション向上につながるということが挙げられます。社員は売上を上げることができれば会社に貢献できる上に、自分自身の収入がアップするのです。売上高に応じるという賃金の基準はわかりやすく、従業員が納得しやすい制度なのです。社員は労働生産性を上げ、企業の業績を上げることに一層努力するようになるでしょう。スキャンロンプランは、モチベーションアップや社員の定着度上昇が期待できる手法なのです。
スキャンロンプランでは売上に応じて賃金総額が決定されるので、成果に伴わない賃金の過払いを抑制できるという点もメリットとなります。賃金や賞与が固定的な場合は社員数にともなって自動的に企業の人件費負担が増大しますが、変動費化することで無駄な人件費を削減できるのです。また、賃金や賞与が査定や上司との面談などのブラックボックス化しやすい場面を通過して決められる場合と比較すれば、各段に明確性や透明性が高くなります。そのため従業員の信頼を得ることにつながります。
スキャンロンプランでは、従業員は自己啓発と自己統制の能力を持つという人間理解をしており、彼らを経営の意思決定と経営成果の分配に参加させることを基本原理としています。スキャンロンプランを導入した場合に基準となる標準人件費率は、過去の売上高と人件費実績に基づいて労使間で設定します。人件費比率の設定を通じて労使協調や従業員の経営参画を促し、労使協調を促すことができる点もメリットです。従業員が経営の視点を持つことで、全社的な生産性のアップにつながるでしょう。
スキャンロンプランを導入した場合には、企業は積極的に新たな取り組みに挑戦する傾向があります。スキャンロンプランでは売上高に応じて賃金が決まるため、売上を上げることにつながる新たな取り組みには前向きです。コストを恐れ、売上の向上よりも現状維持をめざす方針を選択する場合は企業としての成長にはつながりません。スキャンロンプランでは、コスト削減を重要視するラッカープランとは異なり、たとえコストがかかったとしても新たな取り組みを選択しがちなのです。
スキャンロンプランを導入するデメリットとしては、従業員の経費削減の意識が低下するということがあります。売上高を基準とするために、従業員のコスト削減への意欲を喚起しにくいという問題点が指摘されているのです。本来会社の利益は売上高から経費を引いたものです。従って売上が上がってもコストが高ければ利益にはつながりません。しかしスキャンロンプランでは経費を削減しても自分たちの収入が伸びるわけではないので、経費削減の意識が薄れてしまいがちなのです。
スキャンロンプランでは、人件費を決める基準となる標準人件費率への労使間の合意を得るのが難しいこともデメリットの一つです。基本的には過去の売上高と人件費実績に基づいて設定されるのですが、過去のどの時点を基準にするのかを決めることが難しくなりがちです。経営者側は標準人件費率をなるべく小さくしたいと考え、反対に従業員は大きくしたいと考えます。また適正な人件費率を設定しなければ経営に影響が出てきてしまいます。経営者、従業員の双方が納得できる形で標準人件費率を定めることが重要です。
スキャンロンプランの導入におけるポイントの一つとして、経費の無駄遣いに注意すべきだということが挙げられます。スキャンロンプランでは賃金は売上に応じて決まるため、従業員は売上を上げることにのみに注目してしまいがちです。そして売上を上げるために、経費を使い過ぎてしまうことが問題となるのです。経費を使い過ぎてしまっては、企業の利益は上がりません。従業員には、売上ばかりに注目するのではなく、経費削減の意識を持たせることが重要になってくるでしょう。
企業にとって多くの費用を占める人件費の削減は大きな課題であり、出来るだけ雇用を守りながら総額人件費をいかに削減できるかが重要な問題となっています。スキャンロンプランは、売上に応じて賃金総額が決定される賃金総額管理の手法で、成果に伴わない賃金の過払いを抑止することができます。また賃金の基準がわかりやすく従業員の納得も得られやすいので、モチベーション向上や社員の定着度上昇が期待できる制度です。ここではスキャンロンプランについて、その特徴と導入に当たって注意すべき事柄などを解説します。
日本ではスキャンロンプランを賞与原資の決定に際し利用してはいますが、成果配分の制度として利用している企業は現状では多くありません。しかし従業員がモチベーションを向上させ、生産性をアップするために有効な手法です。売上高に応じて報酬が決まるというわかりやすい制度は魅力的で、人材確保にもつながります。運用に当たって注意すべき点を十分に把握した上で導入を検討することをお薦めします。アメリカでは広く用いられている手法ですから、今後益々進んでいくグローバル化に対応するためにも、スキャンロンプランの特徴について理解を深めましょう。
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