記事更新日:2025年10月30日 | 初回公開日:2025年10月30日
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人的資本とは、人材を資本として捉え価値を最大限に引き出す経営のあり方です。従業員が持つスキルや知識、経験などを企業の「資本」と見なし、投資を通じて人材の価値を高めていく考え方です。従来、人件費はコストとして管理される「人的資源」と見なされる傾向にありました。しかし、人的資本経営では人材を投資対象として捉え直し、育成や研修、健康増進への支出を通じて企業価値の向上を目指します。人材の潜在能力を引き出し、企業の持続的な成長につなげるための経営戦略といえるでしょう。
人的資本が注目されている背景の一つに、多様な人材や働き方の浸透があげられます。終身雇用や年功序列といった従来の日本的雇用慣行が変化し、個々の従業員が持つ専門性や価値観は多様になりました。企業が競争力を維持・強化するには画一的な人材管理ではなく、従業員一人ひとりの能力や意欲を引き出す環境整備が求められます。個の能力を最大限に活用してイノベーションを目指す企業にとって、人的資本経営の視点は必要不可欠です。
人的資本が注目されている背景の一つに、投資家による情報開示の要請があります。近年、企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮するESG投資が世界的に拡大しました。従業員のエンゲージメントや人材育成、多様性といった人的資本に関する情報が、企業の持続的な成長性を測るための判断材料として重視されています。投資家は企業が将来にわたって価値を生み出し続けるかを見極めるため、人材戦略に関する具体的な情報の開示を求めるようになりました。
人的資本が注目されている背景の一つに、経営の評価における世界的な潮流の変化があります。たとえば、人的資本に関する情報開示のガイドラインである「ISO 30414」が公表され、国際的な基準が整備され始めました。米国証券取引委員会(SEC)も、上場企業に対して人的資本に関する情報開示を義務付ける規則を導入しています。無形資産である人材をいかに活用し、企業価値につなげげているかの説明責任は、グローバルスタンダードになりつつあります。
人的資本が注目されている背景の一つに、DX時代における経営戦略があります。DX戦略の成否を分けるのは、デジタル技術を駆使して事業を推進できる人材の存在といえるでしょう。多くの企業がデジタル人材不足という共通の課題を抱え、採用競争が激化する状況下では、従業員のリスキリングやスキルアップといった社内への戦略的投資が不可欠です。DX戦略の成否はデジタル人材に大きく依存するので、人的資本経営への関心を高める要因になっています。
人的資本経営がもたらすメリットとして、生産性の向上があげられます。従業員のスキルや知識に合わせた研修や能力開発の機会の提供は、個々のパフォーマンス向上を実現するでしょう。働きがいのある職場環境を整備し、従業員のエンゲージメントを高める施策も有効です。従業員が自社の目標達成に積極的に貢献したいと感じるようになれば、組織全体の活力が高まります。取り組みを通じた人材の価値の向上は、企業全体の生産性を高めるでしょう。
人的資本経営がもたらすメリットとして、従業員の能力の可視化があります。人的資本に関するデータを収集・分析するプロセスを通じて、把握しきれていなかった個々の従業員が持つスキル、経験、資格などを客観的に把握できるようになります。能力の可視化により事業戦略の実現に向けた適材適所の人員配置や、将来のリーダー候補の計画的な育成が可能になるでしょう。データに基づいた人材マネジメントは、客観的な人材の評価を実現します。
人的資本経営がもたらすメリットとして、企業ブランディングの向上があります。人材を尊重して投資することで、社外にポジティブなメッセージとして伝わるでしょう。たとえば、現役社員による知人への紹介(リファラル採用)の活性化や、転職口コミサイトでの高い評価といった形で、外部に伝播していきます。投資家や顧客に対しても、持続的な成長力を持つ企業としての信頼性をアピールできます。人的資本に関する取り組みの情報発信は企業の評判を高め、総合的な競争力を強化する有効な手段です。
人的資本を実践する流れの第一歩は、経営戦略と連動する人材戦略の策定です。まず、自社が目指す中長期的なビジョンや事業目標を再確認します。そのうえで、目標を達成するために「どのようなスキルや経験を持つ人材が、何人必要なのか」という理想の状態を描きます。次に現状の人材構成をデータに基づいて分析し、理想との間に存在するギャップを明確にしましょう。ギャップが人材戦略における課題であり、育成・採用・配置といった施策の指針となります。
次にKPI(重要業績評価指標)を設定し、具体的な施策を検討します。KPIは人材戦略の目標が達成されたかどうかを客観的に判断するための指標です。たとえば、「従業員エンゲージメントスコア」「女性管理職比率」「リスキリング研修の受講時間」などが、あげられます。どのような指標を設定すべきか検討する際には、国が公表しているガイドラインなどが参考になるでしょう。たとえば、内閣官房の「人的資本可視化指針」が示す7分野にわたる豊富な開示事項例は、検討の網羅性を高めてくれます。
人材戦略とKPIに基づいた施策を策定したら、次は施策の実行と効果検証を行います。施策は実行するだけでなく、設定したKPIが計画通りに進捗しているかを定期的に確認しましょう。たとえば、半期に一度、エンゲージメント調査を実施してスコアの変動を確認したり、研修後のスキル習熟度を測定します。効果が不十分な場合は原因を分析し、施策の内容やアプローチを見直す必要があります。評価結果に基づき次の一手を判断し、改善を続ける循環が人材戦略を実行するうえで重要です。
人的資本を実践する上での重要ポイントは、情報開示を目的化しないことです。2023年3月期決算以降、有価証券報告書での人的資本情報の開示は法的な義務となりました。義務化への対応に追われるあまり、指定された指標の数値を揃えること自体がゴールになってしまうと、本末転倒です。現場はデータ収集に疲弊し、本来目指すべき企業価値の向上という目的が見失われかねません。開示を通じて得られた投資家との対話を、次の人材戦略の改善につなげる具体的なアクションが求められます。
人的資本を実践する上での重要ポイントとして、人材戦略と経営戦略を紐づけることがあげられます。たとえば、「海外売上高比率の向上」を目標として掲げているにも関わらず、人材戦略のKPIが「国内の研修時間」だけでは、両者の連動性は見えません。投資家は人的資本への投資が、どのように企業の持続的な成長と収益向上につながるのか、そのストーリーを求めています。なぜそのKPIを設定したのか、達成が経営目標にどう貢献するのか、論理的に説明可能か検討しましょう。
人的資本を実践する上での重要ポイントとして、全社的に目標へ向かうことがあげられます。人的資本経営は人事部門だけの専管事項ではなく、経営戦略そのものであるため、組織全体でのコミットメントが欠かせません。経営トップが意義を社内に繰り返し発信し、強いリーダーシップを発揮することが重要です。経営企画は戦略との連動を担保し、事業部門は現場での施策実行とフィードバックを担い、人事が専門知識で全体を支えるなど、各部門が連携する必要があります。連携がなければデータ収集が進まず、現場の実態と乖離した施策に終わる可能性があります。
人的資本を実践する上での重要ポイントは、自社のありたい姿を明確化することです。企業が社会でどのような役割を果たし、将来どのような姿を目指すのかという「ありたい姿」が、どのような人材を求め、育成すべきかという人材戦略全体の指針となります。たとえば、「新たな技術で社会課題を解決する」という姿を掲げるなら、挑戦を奨励する人材戦略が導き出されるでしょう。ありたい姿が明確であれば、情報開示においても一貫性のあるストーリーを構築でき、ステークホルダーからの理解を得やすくなります。
サイボウズ株式会社では、肩にハマらず自社のカルチャーが伝わる情報を発信しています。同社は「チームワークあふれる社会を創る」という理念を掲げ、その実現に向けた組織文化を人的資本情報として紹介しています。特徴的なのは、画一的な指標の開示に留まらず、「働きがい」や「自律性」といった、自社の理念と文化を反映した情報発信を重視している点にあります。取り組みは同社が多様な働き方を尊重し、自律的なキャリア形成を支援する姿勢を示しているといえるでしょう。
株式会社ポーラでは、非財務情報の開示で社内の自発的な取り組みを促進しています。同社は女性の活躍推進を経営戦略の柱の一つと位置づけ、「2029年までに女性管理職比率50%」という具体的な目標を社外に公表しました。高い目標は社内全体の意識を変えるきっかけとなり、各部門で女性リーダー育成の必要性が共有され、現場主導のキャリア研修や勉強会が開催されました。情報開示が社内への強いメッセージとなり、組織変革の触媒として機能した事例といえるでしょう。
人的資本経営を推進して、働きやすい環境を整備しましょう。本記事で見てきたように、人的資本経営は、単なる情報開示義務への対応ではありません。個々の従業員の価値を最大限に引き出し、企業の持続的な成長を実現するための経営戦略です。経営戦略と連動した人材戦略を策定し、データに基づいたKPIで進捗を管理し、改善を続けるサイクルを構築してください。取り組みは投資家からの評価を高めるだけでなく、従業員のエンゲージメントを向上させ、誰もが働きやすい環境の整備につながり、企業の競争力を強化します。
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