試用期間中に解雇はできる?【会社都合による一方的な解雇はできない】

記事更新日:2020年09月11日 初回公開日:2020年08月28日

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多くの企業では、従業員を採用する際には採用後に3ヶ月程度の試用期間を設けています。通常なら試用期間後は採用へと進むのが一般的な流れですが、何らかの事情にとって解雇をせざるを得ないことも。試用期間中は広い範囲での解雇が認められますが、客観的かつ合理的な理由がなければ解雇することはできません。今回は、試用期間中に解雇できるケース、法的性質や試用期間の運用にあたっての注意点についてお伝えします。

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そもそも試用期間とは

企業が採用者を見極めるお試し期間

試用期間とは、採用後に従業員の適性などを評価して本採用するかを判断するために企業が設けた期間。短い選考期間だけでは、自社に適する人材なのか見極めることは困難なため、一般的に数ヶ月ほどの試用期間を設けお互いにマッチするか確認します。試用期間中の給与や就労時間などの待遇は、本採用とまったく同じ場合もあれば、本採用時と差をつけるケースも。初めから正社員採用をせずに、試用期間中は契約社員として業務適性をみて、試用期間を終えた後に正社員雇用へ切り替える場合もあります。

一般的には3~6カ月間の試用期間を設ける

法律的には、一度採用した人材を適正な理由なしに解雇することは簡単ではありません。この認識は日本のどの企業でも浸透しているため、企業側のリスクヘッジの意味合いも含め多くの企業で試用期間を設けています。試用期間は3〜6カ月間に設定している企業が多くみられますが、1〜3ヶ月未満のところもあります。試用期間の設定の有無は法的には決まっていないため、試用期間を設けないからといって企業側が不当な処分を受けることはありません。

試用期間中に解雇できるのか?

試用期間中は難しいが解雇はできる

少し難しい表現にはなりますが、試用期間中の労動契約は「解約権留保付労働契約」として扱われます。簡単にいうと、雇用は確定するものの企業は契約の解約権を留保しているということ。つまり、試用期間中に従業員が企業にとって不適格である場合は、留保にしている解約権で契約を解約できるという契約です。ただし、就業規則に解雇事由を明記することが義務となっているので明確な理由がなければ解雇はできません。

合理的かつ論理的で社会通念上妥当なら解雇可能

就業規則に明記できる解雇理由はどのようなものなのか?というと、客観的にみて合理的かつ論理的な内容でなければなりません。例えば、選考時や採用決定後において知ることができず、また知るすべもなかったような事実を知るに至った場合です。就業規則に明記していることが条件ではありますが、モンスター社員のように考えもしないトラブルを起こすケースも少なくありません。判断が難しい場合もありますが、社会通念上妥当なら解約権を行使することが可能になります。

試用期間中の解雇の手続き

試用期間開始14日以内は即時解雇できる

試用期間中に解雇を行う場合は、試用期間開始日から解雇までの日数によっても異なります。試用開始から14日以内に解雇する場合は、解雇予告をすることなく解雇をすることが可能です。(労働基準法第21条により)しかし、この規定は試用開始から14日以内の解雇が企業側にとって完全に自由にできるわけではありません。14日以内であっても、客観的にみて合理的な理由が存在せず、社会通念上相当と認められなければ解雇することはできません。

試用期間開始14日以降は30日前に解雇予告通知

試用期間中であったとしても開始してから14日を過ぎて解雇する場合は、通常の解雇と同じように手続きを踏まなければなりません。具体的には、解雇の際には少なくとも30日前に従業員に対して解雇予告をする必要があります。もし30日前までに解雇予告をしない場合は、解雇までの日数に応じた日数分の平均賃金を支払わなければなりません。これは「解雇予告手当」と呼ばれ、解雇予告をせずに解雇する場合は最大で30日分の平均賃金を支払う必要があります。

試用期間中に解雇する際の注意点

正当な解雇事由でないと不正解雇になってしまう

試用期間中は「解約権留保付労働契約」になるため、一定の合理性があれば従業員の解雇は通常よりも広い範囲で認められます。しかし、試用期間中の労働者は解雇されやすい不安定な状況に置かれることから、試用期間を設ける場合は適切に運用しなければなりません。もしも試用期間中に解雇をしたい場合は、正当な事由で解雇をしないと後々「不当解雇」として訴えられる可能性もあります。そうなると多額な請求をされるだけなく、企業としてマイナスのイメージがつくことにもなってしまいます。

企業都合で一方的な解雇はできない

試用期間中が解雇しやすいといっても企業都合による一方的な解雇はできず、客観的視点での判断がなければいけません。例えば、勤務態度が悪いといっても遅刻や居眠りなど個人の勤務態度が悪い場合もあります。一方、同僚や上司に対する態度が悪いといったモラハラやパワハラなどもあるでしょう。どのような状態にあることを指し「就業規則のどの項目に対して、どう反しているのか」を明らかにしなければ一方的な解雇はできません。

試用期間中に解雇しても不正解雇にならないケース

入院し職務継続が困難な場合

病気やケガによって一時的に働けないときは休職をすることが一般的ですが、長期入院などで職務継続が困難な場合は試用期間中でも解雇することができます。ただし、業務中の事故が原因で休職をした場合は、休職後30日間は解雇することができません。また、休職を認めず即刻解雇することもできず、従業員が休職をした場合もまずは負担の少ない業務から復職できるようサポートする必要があります。一時的に休むだけですぐに元どおり勤務できるにも関わらず、いきなり解雇すると不当解雇になる場合もあるので注意しましょう。

業務態度が企業に支障を与える場合

遅刻や欠席が多いといった社会人として最低限守らなければいけないことが守れていないケースです。居眠りやサボりなども含まれ、勤務態度の怠惰によるものが挙げられます。病気など体調不良によるものは仕方ありませんが、あまりにも酷い状態であれば「自己管理能力がない」と判断し解雇理由となることも。また、最近多いのが上司の指示に一切従わない、同僚の意見を聞かないなど反抗的な姿勢をとるケース。職場の雰囲気を乱してしまうような場合は、試用期間中の解雇が認められる場合もあります。

経歴詐欺をしていた場合

採用時に提出された書類に虚偽の記載があった場合、または大学などの経歴を詐称しているケースでは解雇が認められやすくなります。なぜなら、経歴詐称により企業が求めているスキルを保持していない可能性もあり、業務に支障をきたす恐れがあるからです。TOEICなど点数でも詐称には変わりませんが、薬剤師や弁護士などの国家資格においては無資格で業務を行なっていることになり、犯罪になりかねません。本人にも自覚があり、中途採用においては実務経験を生かした募集が多いこともあり、重大な解雇理由となります。

刑事事件を起こした場合

傷害や窃盗、痴漢などの刑事事件を起こした場合は、事件の概要や就業規則によっては解雇することが可能です。例えば、就業規則の解雇事由に「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚すとき」「犯罪行為を犯したとき」に会社側が解雇にできると明記している場合です。ただし、逮捕された段階では被疑者であり、まだ犯罪者ではありません。有罪判決が確定するまでは犯罪者として扱ってはいけないのでその点は注意しながら進めましょう。

不正解雇の判例

能力不足での解雇

期待していた能力や企業が求める一定の成績が出せない場合は能力不足での解雇が認められるケースもあります。しかし、無理難題の課題や目標を設定し、達成できないからといって一方的に解雇することはできません。このような事例では、パワハラによる不当解雇として裁判になる場合もあるので注意が必要です。事態を防ぐためには、教育期間などを設け指導したり、配置転換など企業側としても対策を試みる態度を示さなければなりません。対応を試みたにも関わらず、成績が明らかに悪いといった場合は正当な解雇となるでしょう。

プロセスを無視し結果を見て解雇

例えば「社内の営業職の売り上げは平均50万円なのに、試用期間の社員の売り上げが半分しかない」という結果だけ見れば能力不足と思うかもしれません。しかし、リーマンショックやコロナなど社会情勢や経済状況によっては、必ずしも本人の能力が原因とは限りません。営業職なら電話やリサーチ、アポイントなどの成果に結びつける努力を行なったのかなどプロセスも大切です。このようプロセスを無視し、現状の結果だけをみて解雇してしまうと不当解雇となる可能性もあります。

アルバイトの試用期間中の解雇について

アルバイトの試用期間でも企業と同じ

パートやアルバイトであっても、一度働き始めたら簡単には解雇することはできません。アルバイトなら簡単にクビにできると思っている人もいますが、不当解雇で逆に裁判で訴えられる可能性も。正社員と同様に入社14日以内なら解雇予告なしに解雇が可能ですが、14日以上は解雇予告が必要です。また、即日解雇の場合は30日分の「解雇予告手当て」を支払わなければならず、給料の1か月分の金額を手当として支払う必要があります。

安易な解雇は避け試用期間の延長などで様子を見る

試用期間中は、適性に欠けると判断した場合でも指導やサポートを行い、改善の機会を与えてできる限り解雇を回避する努力しましょう。また、改善の余地がある場合は試用期間を延長するというのもひとつの方法です。ただし、試用期間を延長するには、就業規則に「適性を判断し試用期間の延長をする場合もある」「従業員が延長について同意する」という明記が必要です。可能であれば配置転換を行うなど、他の部署で活躍できるチャンスも検討しましょう。

試用期間中の解雇に対して失業保険は給付されるのか

6ヶ月未満の試用期間は対象外

結論から言うと、6ヶ月未満の試用期間で退職した場合はその分の失業手当を貰うことはできません。失業手当を受給するためには、一定の期間は失業保険に加入していることが必要となります。新しい会社に所属し1年以上雇用保険に加入していない場合は、失業手当を貰うことはできず、退職金を受給するのも難しいでしょう。数週間~6ヶ月未満で退職してしまった場合は、失業手当受給の対象外となるのでその点は注意する必要があります。

再就職の場合は給付される可能性がある

前職を退職した翌日から1年以内

一般的には6ヶ月未満での離職では失業保険は受給できませんが、例外として再就職をした場合は給付されることもあります。また、自己都合による退職であったとしても意思に反する正当な理由がある場合は「特定理由離職者」に認定されることも。ただし、失業手当がもらえる期間は、原則として離職した日の翌日から1年間です。手続きが遅れてしまい、最後まで受給できなくならないように早めに準備・申請を行いましょう。

直近2年以内の被保険者期間が合計で1年以上

自己都合による退職、会社都合による退職のどちらであっても被保険者期間の日数によって受給できる期間は異なります。再就職で受給できる場合は、離職の日以前の直近2年以内に雇用保険の被保険者期間が通算して1年以上でなければいけません。離職時の年齢によっても受け取れる失業手当の金額が違い、13,630円〜15,890円(賃金日額の上限額)となります。また、給付手当が口座に振り込まれるのは申請から約1カ月〜となるため注意しましょう。

試用期間中の解雇は慎重に行いましょう

試用期間は、従業員の適性を判断するための「お試し期間」という意味合いを持ってはいますが、一方的解雇は簡単にできません。労働法などの法的性質や従業員へ与える影響を考慮し、合理的な解釈での解雇理由が必要となります。判断を見誤ると不当解雇など裁判沙汰になることもあるので注意が必要です。解雇予告や就業規約への明記などをしっかり把握して、トラブルにならないよう採用前から対策を行うようにしましょう。

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