労働基準法第16条の内容とは【罰則や例外、裁判事例などについて解説します】

記事更新日:2023年04月21日 初回公開日:2023年04月21日

用語集 人事・労務お役立ち情報
従業員のスキルアップの為に、様々な研修や教育制度を設けている企業も多いのではないでしょうか。業務に関連している研修や教育を受ける場合は、勿論研修費用は企業が支払う義務があります。従業員が自己啓発の一環として研修や留学を行い、企業がその費用を負担している場合は、可能なら長く働いてその知識を生かしてほしいと考え一定期間の勤務を義務付けたいと考えているのではないでしょうか。しかし違約金や賠償金などで従業員を引き留めるのは、労働基準法第16条に違反してしまいます。今回は労働基準法第16条について解説していきます。

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労働基準法第16条とは

損害賠償の禁止について記載された法律のこと

労働基準法第16条とは、損害賠償の禁止について記載された法律の事です。使用者(企業)と労働者(従業員)が労働契約を締結する際、従業員が労働契約内容に従わなかった場合、企業は不履行を被ります。その不履行に対して企業から従業員に違約金を定める契約を禁止する法律です。事前に損害賠償額を決めておくという事は、考えられる損害の額よりも金額が高くなる可能性があり、従業員にとってとても不利な契約です。そういった状況を防ぐために制定されています。

労働基準法第16条の役目は退職の自由を守ること

労働基準法第16条は、従業員の退職の自由を守る意味でも重要な役割を果たします。事前に不履行が発生した際に損害賠償額を決められてしまうと、金額次第では従業員がその企業でずっと働くことを強制されることに繋がりかねません。こういった事態は職業選択の自由を阻害し、従業員を不当に拘束することとなります。従業員に不利な契約を結ばない為にも、労働基準法第16条で損害賠償の禁止が明示されています。従業員だけでなく、親権者や身元保証人に対しても同様です。

労働基準法第16条の内容

労使契約で違約金や賠償金の支払いを約束させてはならない

労働基準法第16条は、労使契約で従業員に対し違約金や賠償金の支払いを約束させてはならないとされています。遅刻回数によって罰金を設定している場合や、取引先とトラブルが発生し損害賠償になった際には相当額を賠償させる、等記載がある労使契約は法律に抵触します。また、研修や福利厚生などで資格取得費用を補助している場合、1年以内に退職した際は費用の返還を求める場合も労働基準法違反となり罰金の対象となり注意が必要です。

労働者の退職の自由を奪ってはならない

労働基準法第16条において、労働者の退職の自由を奪ってはならないことが明言されています。労働者は就きたい職業を自由に選ぶ権利を持っています。職業を自由に選べるという事は、退職も自由に行えることを意味しており企業は違約金や賠償金で従業員を会社に縛ることは出来ません。賠償金で従業員を会社に縛ったままにしていると、従業員の職業選択の自由を奪っていることになり法律に反し罰則の対象となります。労働基準法第16条は、退職の足止めとならないよう制定されています。

従業員への損害賠償請求は禁止されない

従業員への損害賠償請求は禁止されていないことも、労働基準法第16条の特徴です。先述した内容を見ると、もし企業が従業員のミスなどが原因で損害を受けた場合全て被害を被る必要があるように見えますが、そうではありません。労働基準法第16条では事前に労働契約を結ぶ際、損害などを見越して設定することは禁止していますが、実際に損害を受けた場合に損害賠償を請求することは出来ます。しかし損害額全てを請求出来る訳ではなく、業務中に起きた事象は企業としても責任がある為、一部のみの請求となります。

従業員のミスに対して損害賠償を行う場合

減給を行う場合には懲戒処分の根拠が必要となる

従業員のミスに対して損害賠償を請求し減給を行う場合には、懲戒処分の根拠が必要となります。企業の一方的な判断で従業員に対して減給や何らかの処罰を行うことは出来ません。もし一方的に行ってしまうと、企業側が罰せられてしまう可能性があります。従業員が業務上でミスや過失を起こしてしまい損失に対して減給を行う場合、処分を行う為には明確な証拠や根拠が必要です。第三者が見た時に明確に懲戒処分だと判断出来るような証拠や根拠を明示できるようにしておきましょう。

減給を行える有効条件

就業規則の規定と処分事由への該当

従業員のミスに対して損害賠償を行う場合に、減給を行う条件として就業規則の規定と処分事由への該当していなければなりません。就業規則に記載を行っていないにも関わらず、従業員を懲戒処分にすることは出来ません。懲戒処分は特別な制裁罰として位置づけられていることから、懲罰の種類や事由を就業規則に明示しておく必要があります。就業規則に明示するだけでなく、従業員への周知は必ず行っておきましょう。明示していても従業員への周知を怠っていた場合は処分が行えない可能性があります。

就業規則の手続き

従業員に対して減給を行う場合は、就業規則の手続きが必要です。従業員がミスを犯し、企業が損害を受けたとしても突然減給処分を行えるわけではありません。処分を下す前に、問題を起こした従業員に対して就業規則にの減給処罰対象となる事を説明した上で、事実の確認と本人の弁明などしっかりと把握する必要があります。他の従業員がおなじことを行っていないかの確認や、過去同じ事例が起きた際に下した処分と差異が出ないように公平性を保つことが重要です。就業規則に則った手続きを踏んでいない場合は、減給処分が無効となる為注意しましょう。

権利濫用法理

権利濫用法理も減給を行う為の条件として不可欠です。権利濫用法理とは、会社からの一方的な解雇を制限させるためのルールで「社会通念上相当であると認められない解雇は、その権利を濫用したものとして無効とする」という考えです。権利濫用法理に反して不当解雇が無効になった時は、社員の地位に戻りますが他の部署に配置転換を行う、給与を減額するといった不当な扱いを行うことも許されません。不当解雇によって従業員から損害賠償請求されることもある為、処分は慎重に判断しましょう。

労働基準法第16条の例外

研修費や留学費の返金請求

金銭賃貸契約により費用を負担している

研修費や留学費の返金請求が出来るのは、金銭賃貸契約により費用を負担している場合です。労働基準法第16条の例外として、労使契約ではなく金銭賃貸契約で研修や留学費用の取り決めを行っている場合は、企業は返金請求を行うことが出来ます。金銭賃貸契約は企業からお金を借りて研修や留学に臨んでおり、借金と同じ扱いとなります。企業が設定している期間勤務していれば、返済義務が免除されるという記載があれば従業員を縛りつけているとはみなされません。

本人の意思で研修や留学に参加している

研修費や留学費は、本人の意思で研修や留学に参加した場合は返金請求を行えます。企業が指示して受講した研修や留学費は勿論従業員に請求することは出来ません。しかし企業からの指示ではなく、自己啓発の一環として従業員自らが希望して参加した研修や留学の費用を会社が負担しているのであれば、従業員は退職時に費用を返還する義務が発生します。その為、本人の希望により参加し費用を会社で負担している場合は、返金請求を行えることがあります。しかし従業員が希望していない留学を企業がさせた場合などは対象となりません。

教育内容と業務の関連性が低い

教育内容と業務への関係が薄い場合にも、研修費や留学費の返金請求をすることが出来ます。研修や留学に参加した結果、その経験を活かせている場合には企業にとってプラスとなる為、従業員にその費用を求めることは出来ません。しかし研修や留学の内容が業務への関係性が薄い場合には先述したように、自己啓発の一環として扱われ従業員に費用変換を求めることが可能です。教育内容と業務内容の関係性が高い場合は、企業都合と判断される可能性が高く返金請求にはマイナスの印象となります。

現金免除となる勤務期間が適切に取られている

研修費や留学費の返金は、現金免除となる勤務期間が適切に取られている際には請求することが可能です。従業員が希望した研修などの費用を返還を求めず業務で還元してもらう為に、返還免除期間として一定期間勤務していれば返還を免除されます。労使契約と認識されない為にも、金銭賃貸契約の返還免除期間は適切な長さである必要があります。期間が決まっている訳ではありませんが、5年や10年と長い期間を設定していると労働を強要しているとみなされる為、注意が必要です。

金銭賃貸契約の範囲内で請求している

金銭賃貸契約の範囲内で請求していれば、研修費や留学費の返金請求は可能です。返金請求は、金銭賃貸契約で締結した内容に基づいた金額を従業員に返済して貰います。その為、研修や留学で支払った費用内の金額以上のものを請求することは出来ません。賃貸契約で締結し、研修や留学に掛かった費用以上の金額を請求することは、労働基準法第16条で禁止されています。また従業員に留学費用を賃貸していた場合、現金免除期間内に退職しても満額で返金請求出来ない場合もある為注意が必要です。

労働基準法第16条に抵触した場合の罰則

6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金

労働基準法第16条に抵触した場合は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。労働基準法に違反した場合には、悪質性によって懲役や罰金が定められています。違反の中で最も重い物は、強制労働をした場合に1年以上10年以下の懲役または20万以上300万円以下の罰金です。労働基準法第16条の違反は、労働基準法の中でも3番目に重い罰則に該当します。違法な時間外労働を強いた場合なども同等の刑です。懲役や罰金の対象となると、企業イメージダウンにも繋がる為違反にならないよう気を付けましょう。

労働基準法第16条の裁判事例

サロン・ド・リリー事件

労働基準法第16条で実際に問題となった事例に、サロン・ド・リリー事件があります。美容院を経営していたY社は労働契約に、「会社の意向を無視して退職してはならない。」「退職した際には入社月に遡って工数手数料を払う」という内容を明記していました。意向を無視して退職した従業員に対し、在籍していた7.5ヵ月分の講習料30万円を請求する裁判を起こしますが、労働基準法第16条に違反しているとして棄却されます。新人教育は会社に求められる物であり、契約により従業員が縛られていると判断されたためです。

長谷コーポレーション事件

長谷コーポレーション事件は、労働基準法第16条の例外である返還請求が認められた判例の一つです。従業員が社内の制度を使いアメリカへ留学しました。留学に行く前には留学費用の返還について従業員と契約を交わしていましたが、留学に行った2年4か月後に従業員が退職します。契約内容に違反したとして企業側は従業員へ留学費用の返還を要求します。留学前に交わしていた契約書を従業員も了承していた点や留学が業務とは関連性がなく一定期間内に退職していることから返還請求が認められた事例です。

まとめ

労働基準法第16条を守って従業員が働きやすい職場を作ろう

労働基準法第16条の内容や、例外として返金請求が出来る条件などについて解説しました。従業員の成長のために研修や留学を活用している企業は多くあります。しかしその研修や留学に掛かった費用を回収する為に、労使契約で賠償を予定させる事は労働基準法第16条に違反し処罰の対象となります。どのような状況になったとしても、企業が金銭面を理由に労働を強要し従業員の退職を引き留めることは出来ません。労働基準法第16条を遵守し、従業員が働きやすい職場環境を作っていきましょう。

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