記事更新日:2024年12月12日 | 初回公開日:2024年12月05日
多角化戦略とは、自社の経営資源を活用して新たな分野に踏み出す戦略です。戦略的経営の父とも呼ばれているアメリカのイゴール・アンゾフ氏によって提唱されました。アンゾフ氏はアンゾフの成長マトリクスとして、企業運営に必要な4つの戦略マトリクスの一つに多角化戦略を挙げています。多角化戦略とは、従来とは異なる市場で新しい製品を投入することによって売上拡大を狙う戦略です。経済低迷や国際情勢が不安定なことなどにより、多角的な戦略が求められるとされています。
多角化戦略の類型には、水平型多角化戦略があります。水平型多角化戦略とは、企業がすでに保有している生産技術を活用して既存の市場と似ている市場に新製品を投入することです。乗用車を製造している企業がトラックやバイクの製造を行う・牛乳メーカーがヨーグルトの製造を行うといったことが水平型多角化戦略に該当します。水平型多角化戦略は既に保有している技術やチャネルの活用が可能であるため、新しく設備投資を行う必要もありません。
多角化戦略の一つに、垂直型多角化戦略があります。垂直型多角化戦略は、生産技術などの関連性は水平型に比べると低いものの、今まで対象としてきた市場と似た市場に対して新しい製品を投入することです。今まではサプライヤーや他のメーカーに依頼していたことを自社で行うことをいいます。例えば、今までは食品小売を行っていたメーカーがレストランを経営することなどが、垂直型多角化戦略に該当します。既存の顧客にもアプローチしやすくなりますが、設備投資などは必要です。
集中型多角化戦略も、多角化戦略の類型です。集中型多角化戦略とは、自社が持っているスキルやノウハウを活用して既存の事業とは関わりがあまりない市場に参入していくことです。テレビの製造を行っていた企業がカーナビの製造に参入する・フィルムメーカーが技術を活かして化粧品市場に参入するなどです。今まで培ってきたノウハウや知識を活用できることが集中型多角化戦略のメリットですが、新規市場に参入するため予想している以上にコストや労力を求められます。
多角化戦略には、集成型多角化戦略があります。集成型多角化戦略は、コングロマリット戦略とも呼ばれており既存市場や生産技術などが全く関係ない新しい市場に参入することです。コンビニエンスストアが手数料を得るために銀行業務へ進出するなど、従来のノウハウなどを活かすことを目的にせず全く新しいことを始めることを指しています。集成型多角化戦略は、新しい市場に参入していくため事業拡大出来るメリットがありますが、多くの費用が必要となります。
多角化戦略はリスク分散が出来る点がメリットです。企業運営を行っていると、法令改正や顧客のニーズ変化など予測が難しい外的環境の変化によって打撃を受けてしまうこともあります。成長サイクルや事業内容の異なる複数の事業を展開しておくことによって、経営基盤を安定させることにも繋がります。事業が一つだけでは外的環境の変化によって収益が悪化してしまうと、直接的な影響を受けてしまいます。多角化しておくことでマイナスの事業が発生しても、他でカバーすることが可能です。
多角化戦略のメリットは、プロダクト・ライフサイクルに対応できる点です。プロダクト・ライフサイクルとは、市場に投入した製品の開発や導入・成長や衰退と変化していくプロダクト(製品)の寿命(ライフサイクル)を指しています。事業を一つしか行っていない場合、主力製品が衰退期に入ってしまうと企業全体の売上に影響してしまいます。多角化戦略を実行しておくことで、一つの製品が衰退期に入っても他の製品で売上減少分を補うことが可能です。
シナジー効果が生まれるのも、多角化戦略のメリットです。シナジー効果とは、相乗効果とも呼ばれており複数事業を運営することで双方に良い影響を及ぼすというものです。既存の事業で培ったノウハウや知識を新規事業で活用する・新規事業で得た知見などを既存事業に活かす事によって、シナジー効果が生み出されます。特に関連多角化戦略を行っている企業にとっては、既存事業の知識やノウハウを活用し効率的に経営を行うことが可能です。
多角化戦略を行うことによって、社員のモチベーションも上がります。社員も企業にとっては大切な資源の一つです。多角化を行うことによって、社員の適性に合わせた配置を行うことができるため人材を効率的に活用することができます。多角化によって新たな業務も作り出されるため、新しい部署やポストが準備されます。新しいことに挑戦したいと考えている社員にとって、新しい知識やスキルの取得を行える環境はモチベーションアップにも繋がります。
多角化戦略のデメリットは、一定のコストが掛かることです。多角化を実施する場合、関連性のある市場に参入する場合は比較的コストを抑えることができます。しかし新規市場の開拓や新製品の開発などを行う場合は、マーケティング活動や製品開発へ投資が必要となるため一定のコストが発生します。また新規市場や新製品の開発を行っても、必ず成功するとは限りません。収益の柱になるまでに時間が掛かるだけでなく、負債が増えてしまう可能性もあるためリスクも勿論あります。
損失が増える恐れがあるのも、多角化戦略のデメリットです。多角化戦略は複数の事業を展開することによって、収益拡大を狙えます。しかし複数の事業を展開したことによって経営効率が悪くなってしまうと、損失拡大にも繋がりかねません。リーマンショックや新型コロナウイルスの流行などが起こってしまうと、事業の種別を問わずに収益が低下してしまう恐れがあります。多角化戦略を行う際には、自社のリソースをしっかりと把握し一定の経営水準を保てるかどうか検証することが大切です。
多角化戦略は企業ブランドが希薄化する恐れがあるデメリットがあります。単一事業のみであれば、顧客に明確なイメージを持ってもらうことができます。しかし多角化戦略によって複数の事業を運営していると、顧客からこの企業は何を主力にしているのだろうと思われてしまう可能性もあります。そのため今まで築いてきたブランドイメージが不透明になってしまう事も考えられます。また高級ブランド路線で事業を展開していた企業が、低価格の商品を販売すると消費者のイメージとは異なりブランド価値が低下してしまうかもしれません。
多角化戦略を導入して成功したのは、ソニーグループです。ソニーグループは、TVやパソコン・スマートフォンなどを主に制動しているメーカーです。それだけではなくエレクトロニクスを始めとするゲームやエンターテイメント、音楽や金融など様々な事業を展開しています。ソニーが多角化戦略で成功したポイントは、映画や音楽など既存事業と関わりが薄いところからではなく技術力を活用できる分野から事業展開を行ったことです。更に新規事業を進めていける人材やノウハウを迅速に確保したことも要因の一つです。
楽天グループも、多角化戦略に成功した企業の一つです。楽天グループはM&A(合併・買収)を行うことによって多角化を進めています。1997年に設立された楽天は、同年5月に楽天市場のECモールサービスを開始し2000年に株式の公開を行いました。上場したことで獲得した資金を活用してM&Aを進めています。2003年には旅行サイトを運営していたマイトリップネットを買収し、その後楽天トラベルと合併しています。様々な業種の企業を買収・合併することによって、幅広いサービスを提供する多角化に成功しています。
多角化戦略を成功させるためには、企業理念を大事にしましょう。企業理念は、何のために会社が存在しているのか・何のために事業を行っているのかを示している企業の行動指針です。新規事業を立ち上げる際に、企業理念に沿ったものでなければ従業員がどの方向に進めれば良いのかわからなくなってしまう事もあります。方針がずれることによって、企業として一貫性を保てなくなる可能性もあります。多角化戦略を取り入れて、複数の事業に参入する場合には企業理念に基づいているかどうかを考えるようにしましょう。
多角化戦略を成功させる方法は、ミニマムスタートを意識することです。多角化戦略は、新規事業を立ち上げることと同じであるため費用や人員増加など様々な面でコストが必要になります。大きな事業を一気に進めてしまうと、失敗したときのリスクが大きくなり既存事業にも影響を与えかねません。初めて多角化戦略に取り組む場合は、自社の経営資源を把握し多角化を行う事業を絞りつつ少額から始めることが大切です。新規事業の成長に合わせて、経営資源を投入するようにしましょう。
既存事業と関わりのある事業から始めることで、多角化戦略を成功させる事ができます。主力となっている既存事業二関連性がある事業からスタートすることが大切です。関連性を持った事業であれば、今まで培ってきた技術やノウハウを効率的に活用することが可能です。関連性があることによって、シナジー効果も発生しやすく成功する可能性が高まります。しかし関連性があってもシナジー効果を期待できない場合は、多角化を実施するのを控えるかM&Aといった方法を取ることをおすすめします。
多角化戦略の類型やメリットやデメリット、成功させる方法などについて解説しました。多角化戦略は、今まで培った技術やノウハウを活かして新しい市場に参入・新製品を作り出し売り出す戦略です。企業は多角化戦略を導入することによって、リスク分散やシナジー効果など様々なメリットを得ることが出来ます。しかし導入することで損害が増えてしまう可能性や企業のブランドイメージを低下させてしまうデメリットもあります。企業にとって導入することが最適なのかをしっかりと理解し、多角化戦略を活用していきましょう。
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