記事更新日:2021年11月02日 | 初回公開日:2021年11月01日
人事・労務お役立ち情報 用語集 グローバル経済初めにABWという言葉の意味について説明をしていきます。ABWはActivity Based Workingの頭文字から生まれた言葉です。ABWとは企業で働く従業員が働く場所を自由に選択できる働き方のことです。そのため、その日の気分や業務内容によって自宅で働いたり、共有のワークスペースで働いたりなどフレキシブルな働き方を実現することが出来ます。従来よりも従業員の自由度が増した、新しい働き方と言えるでしょう。
ABWという働き方はオランダで生まれました。最初にこの働き方を提唱したのはオランダにあるワークスタイル変革コンサルティング会社のヴェルデホーエン社です。ヴェルデホーエン社は仕事を「10の仕事」に分類し、それぞれの活動に合ったスペースを提唱しています。そしてヴェルデホーエン社はABWの導入を通じて、顧客企業におけるスペース効率の向上や社員の生産性とエンゲージメントの両立等を実現させています。ヨーロッパではABWを取り入れる企業が急速に増加しており、近年特に注目を集めている働き方です。
ABWと混同しやすい言葉として「フリーアドレス」があります。フリーアドレスとはオフィスの中で固定席を持たず、自分の好きな席で自由に仕事をするワークスタイルのことです。出勤をした社員は仕事の資料やパソコンなどを持って好きな場所で働くことが出来ますが、あくまで働く場所はオフィス内に限られます。一方でABWは自宅などのオフィス以外の場所も選択肢に入るため、より柔軟に働く環境を変化させることが出来るでしょう。
ここからはABWを導入するメリットを3つ紹介します。1つ目はワークライフバランスが実現できることです。オフィスではなく自宅や自宅近くの場所で働くことで通勤時間を削減することが出来ます。それによって育児や介護などの時間を充分に取ることが出来るでしょう。さらにより自由な時間が出来るので、趣味に時間を費やすなどプライベートの時間を楽しむ余裕もでてくるはずです。ABWは多様なライフスタイルが存在する現代に合った働き方と言えるでしょう。
2つ目はコストの削減が期待できることです。従来の働き方では全社員がオフィスに出社をするため、全員が働けるための十分なスペースを確保しなければなりませんでした。しかしABWを導入すれば全員分の固定席を用意する必要はありません。また会議室やワークスペースの中で普段使用しない場所があればそのスペースを削減できるでしょう。そうすることでオフィスの維持費や備品代などのコストを削減することが出来ます。
3つ目のメリットは生産性の向上が期待できることです。社員一人ひとりにとって業務に集中しやすい環境は違うでしょう。オフィスであっても人によっては中々集中できないという人もいるかもしれません。しかしABWであれば業務の内容やその日の気分に合わせて働く場所が選択できるので、最適な就労環境で働くことが可能です。さらに仕事に対する意識も高まり、最終的には企業全体の生産性の向上につながります。その結果、企業にとっても従業員にとっても良い結果を生み出すでしょう。
ABWの導入はメリットばかりではありません。ここでは導入によるデメリットも併せてご紹介します。1つ目のデメリットは労務管理が難しくなることです。固定席のワークスタイルと異なり、ABWは従業員が働く場所を自由に選べるため、各従業員が現在どこで働いているのかを把握しづらくなるでしょう。また勤怠管理や人事評価といった労務管理が難しくなり、不正が起こりやすい環境が生み出されてしまいます。そのためABWを導入する前に勤怠管理などに関するルールを明確にするようにしましょう。
続いて2つ目のデメリットは、セキュリティリスクが発生してしまうことです。オフィスで全社員が働いていればICTデバイスを社外に持ち出すことはありません。そのため第三者への情報漏洩やデバイスの紛失を防ぐことが出来ます。しかしABWはオフィス外にデバイスを持ち出す機会が多く、セキュリティリスクが高くなってしまいます。そのためセキュリティ管理を徹底するための取り組みを事前にする必要があるでしょう。
最後に3つ目のデメリットはABWという新しい働き方を浸透させるのに時間がかかってしまうことです。オフィスの固定席で働く従来のワークスタイルに慣れている社員にとっては、ABWを導入するのに抵抗を持つ可能性があります。またABWを導入しても結局元の働き方と変わらないというケースが発生することも充分に考えられます。こうした状況から全社員にABWを浸透させるのには時間がかかることも理解しておくことが重要です。
続いてABWを導入する際の手順を順番に説明します。まず初めに行うのは働き方の状況を社内で調査することです。全社員にとって働きやすい環境を作るためには、社員の意見を積極的に取り入れることが重要です。ABWを導入する前に現在の働き方やオフィスの使いやすさなどについて社員にヒアリングやアンケートを実施するようにしましょう。そうすることで今まで気づかなかった従来の働き方の利点や課題などが浮き彫りになるはずです。
社内調査を行ったうえで、次にABWを導入するべきかを社内で議論します。先程も記載をしたように、ABWの導入はメリットとデメリットが存在します。ですので、ただやみくもにABWを取り入れれば良い訳ではありません。ABWの主な目的となる働きやすい環境づくりや生産性の向上がどの程度達成できるかどうかを事前に確かめるようにしましょう。その上で必要であると結論づいた場合は本格的な準備を進めていきます。
ABWの導入が妥当であると判断したあとは、レイアウトを考えましょう。既存のオフィスにABWを導入する場合は共同のワークスペースやカフェスペースを設けるなど、従業員が快適に環境づくりを実現するレイアウトを考えます。使いやすさやコミュニケーションの取りやすさなども考慮しながらレイアウトを完成させましょう。さらに社外の勤務ではICTデバイスも必要になるため、導入時に備品などをあらかじめ用意しておきましょう。また、それに合わせて勤務時のルール等を改めて見直すことも大切です。
次にABWを導入する際のポイントを2点ご説明します。1点目は会社へのエンゲージメントを高める施策を作ることです。ABWでは社員が自由に働く場所を選択できるため、企業への帰属意識が薄まってしまう可能性があります。それを防ぐために会社へのエンゲージメントを高める施策を定期的に実施する必要があるでしょう。例えば会社の理念を伝える、社員同士が交流できるイベントを実施するといったことが挙げられます。
2点目のポイントは業務に関する調査分析をしっかりと行うことです。ABWを導入する際は社内にどのような種類の業務があり、どのような働き方があるのかを把握しなければなりません。業務によってはABWの導入をすることで生産性が下がってしまう可能性もあるでしょう。ですので、ABWを導入することで業務にどのような影響が出るのかを事前に予測、そして分析をすることが重要です。ABWの効果を高めるためにも調査分析を念入りに行いましょう。
最後に、実際にABWを導入している企業を3社紹介します。1社目はオフィス家具大手の株式会社イトーキです。イトーキは2018年に新本社オフィスに移転後、ABWを導入しました。その際に新たな働き方のスタイルである「XORK Style」を作り、ソロワーク、デュオワーク、グループワークなど幅広い働き方を社員が自由に選べるようになりました。この取り組みは業務内容に応じて社員が働く場所を変えて、パフォーマンスを高めることを目的としています。
2社目は文房具やオフィス家具、事務機器を製造、販売するコクヨ株式会社です。コクヨでは社内にABWを導入し、社員はメインオフィスの他、コワーキングスペースやカフェ、レンタルオフィス、在宅など業務内容やその日の予定に応じて働く場所を選択することが出来ます。社員同士のコミュニケーションはリアルな会話のほかにメールやチャットで行われています。また、グループ会社のコクヨマーケティングではABW型のオフィスをレイアウト、構築するビジネスを行っています。
3社目は生活用品や家電のメーカーであるアイリスオーヤマ株式会社です。アイリスオーヤマでは2018年に完成したアイリスオーヤマグループ東京アンテナオフィスでABWを導入しました。ABWは働き方改革の推進、そして採用力の向上を目的として導入されました。ABWの導入により、社員は生産性の高い働き方を実現しています。また、社員からは「今まで入らなかった情報が入るようになった」、「非常に良かった」などの声が挙がり、非常に好評だったそうです。
この記事では近年新たな働き方として注目されているABWについて解説をしてきました。ABWを導入することでワークライフバランスが実現できる、生産性が上がるといった効果が期待できます。一方で労務管理が難しい、セキュリティリスクがあるなどのデメリットもあります。ですので、ABWを導入する前に社内の働き方や業務内容に関する調査を行い、導入後の影響を予測することが重要です。社内調査をした上で妥当であると判断した場合は、ABWを導入してみると良いでしょう。
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