介護分野での技能実習制度とは?【特長から受け入れのポイントまで徹底解説】

記事更新日:2020年10月30日 初回公開日:2020年10月15日

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介護業界の人手不足は年々深刻化しています。厚生労働省は、2025年には介護人材が約37万7000人不足するという予測をたてています。他方で少子化の影響で日本国内では働き手が不足気味で、介護分野への就業者が増加する見込みは立ちません。そのような状況で、ここ数年、介護分野での外国人人材の受け入れを可能にするために色々な制度変更がなされてきました。そのうちの一つが、技能実習制度の介護分野での解禁です。この記事では、介護分野での技能実習制度の概要や現状、特長や留意点、また実際に技能実習制度を導入する際のポイントを紹介したいと思います。

介護分野での技能実習制度とは

日本の介護サービスの海外への移転のための制度

介護分野での技能実習制度は、日本の介護サービスで培われた技術や技能を、発展途上国に移転することを目指しています。今後アジア諸国でも高齢化が進んでいくなか、先行して高齢社会に突入している日本の介護分野での経験を共有することをめざすとされています。同時に、技能実習生の実習中は一般スタッフと同様に就労することが認められているため、彼らの受け入れが介護分野の人材難の解消につながるものと、あわせて期待されています。

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介護分野での技能実習制度の現状

2019年度には約9000人の技能実習生が研修中

2019年度、介護分野で技能実習生として約9000人が日本に在留しました。そのうち、ベトナム出身約3500人、ミャンマー出身約1500人、インドネシア出身約1400人、中国出身約1200人、フィリピン出身約600人となっています。もともとインドネシアやフィリピン、ベトナムは日本に対する介護人材の送出しに積極的でした。そのため、直近の統計でも多数をしめています。他方、ミャンマー出身実習生は、この1、2年で急増し、2019年度にはインドネシアやフィリピン出身の実習生の数を越したことが注目されます。

介護分野での技能実習制度が解禁された背景

高齢化の進行と介護分野の人手不足

政府は、もともと介護分野での外国人人材受け入れに消極的でした。事実、技能実習制度が介護分野に解禁されたのも、2017年と比較的最近のことです。その理由は、主に3つありました。第一に、介護職がものづくりではなく対人サービス業であるため、技能実習生の日本語能力では不安があると考えられたこと。第二に、介護職は高齢者の生命や健康にかかわる仕事であるため、質が担保されるかわからない外国人人材の受け入れには慎重であるべきだとされたこと。さらに、外国人労働者が大量に来日することで、日本の介護職員の待遇が低下するのではないか、という見方も慎重論を後押ししました。しかし、高齢化と少子化の進行が相まって、介護分野での人手不足は深刻の度合いを増してきました。

2017年に成長戦略の一環として解禁

政府は2008年以降、インドネシアを皮切りに、フィリピン、ベトナムからEPA介護福祉士候補者という形で、外国人介護人材の受け入れを始めます。そして、2014年に政府の日本経済再生本部から介護分野での技能実習制度解禁の方向性が示され、2017年11月から、介護分野での実習生受け入れがはじまりました。解禁には賛否両論あったようですが、介護分野の成長に役立つという判断から、政府全体の方針として実習生受け入れが決定された形です。一方で、解禁慎重論に配慮し、実習生に来日時点で日本語検定4級(N4)の合格を要求するなど、厳しい条件も付けられています。

技能実習制度による介護人材活用の特長

介護職未経験者でも採用でき人材が確保しやすい

技能実習制度を活用することで、介護職未経験者でも採用することが可能になるので、人材確保が比較的しやすくなります。たとえばEPA介護福祉士候補者を呼び寄せるには、候補者が出身国の介護資格を持っている必要があり、手続も技能実習生の受け入れよりも煩雑です。介護福祉士の資格を持つ外国人の採用は事業所毎に自由に行うことができますが、現状有資格者の数は少ないため、やはり人材確保は簡単ではありません。これに対して、技能実習制度では、実習開始前に320時間の研修を受けることで現場での技能実習が可能であるため、多くの人材を日本に呼び寄せることができます。

技能実習生は制度上転職することがない

技能実習生は、実習期間中原則として同じ事業所で研修を行うことになっています。実習生が実習先を変えることができるのは、今いる実習先の事業所に何か問題があって、実習を続けられなくなったときだけです。それ以外のケースでどうしても実習を中止したい場合、実習生は帰国することになります。そのため、実習生を受け入れる事業所からすると、技能実習生を、技能実習期間中は継続して働いてくれる人材として期待できますね。

ビザの切替で人材の定着を期待できる

技能実習制度による研修期間は最長5年ですが、この期間をさらに伸ばす途が開かれています。技能実習を3年終えた段階で、技能実習生は技能実習ビザから特定技能ビザへの切替を申請することができます。特定技能ビザは最長5年まで延長することができますから、ある事業者が技能実習生を採用すると、同じ実習生に通算8年働いてもらうことが可能になるのですね。さらに、特定技能ビザで日本に就労している間に介護福祉士の資格を取得することができれば、介護ビザの発給を受けることができます。介護ビザの発給が受けられるとビザの更新回数に制限がなくなるため、介護事業所にとっても、外国人人材にとってもメリットは大きいのです。

介護分野での技能実習制度活用上の留意点

実習生は来日時点でN4の取得が必須

介護分野の技能実習生には、来日前に日本語検定4級(N4)に合格することが求められます。N4の難易度は、「基本的な日本語を理解することができる」レベルだとされています。しかし、例えばN4合格のために学習が必要な漢字の数は300程度と言われており、日本語の学習経験がない外国人にとっては難易度が高いのではないでしょうか。そのため、来日前の技能実習生にN4合格を求めるのはいきすぎだとの意見もあります。しかし、日本語での意思疎通に困難があると、介護サービスの利用者の満足度を下げたり、利用者の生命や身体にかかわる事故の原因にとなったりすることも考えられます。そのため、国による規制にかかわらず、日本語学習に積極的な技能実習生の採用が求められるでしょう。

実習生を受け入れられる事業所は限られている

介護分野で技能実習生を受け入れることができる事業所は制限されています。まず、技能実習生は訪問介護サービスを提供する事業所では実習できません。日本語能力が十分ではない実習生が、単独で訪問介護を行うと無用なトラブルを引き起こしかねないという理由です。サービス付き高齢者住宅(サ高住)を運営する事業者も、実習生の受け入れはできません。サ高住には介護保険法による監督ができないからだということです。また、技能実習生の受入先は、経営が不安定な事業所を排除するために、開設後少なくとも3年が経過していることを求められます。

実習生の受入態勢を整える必要がある

技能実習制度を活用する事業所には、実習生を受け入れるために一定水準以上の人的体制を整えることも必要になります。まず、技能実習生5人に対して1人の割合で、技能実習指導員を配置する必要があり、かつ実習指導員となるには介護業界で5年以上の職務経験が求められます。さらに、実習指導員のうち1人は必ず介護福祉士または看護師でなくてはいけません。また、一般職員に対して技能実習生の数が多くなりすぎないように、実習生の受け入れは一般職員の20%から30%程度の人数に制限されています。人材難を実習生の受け入れだけで解決することはできないことに注意が必要です。

介護分野に対応できる監理団体は限られている

技能実習生を受け入れるためには監理団体といわれる非営利団体に、実習実施のためのサポートを受けることが一般的です。ところが、介護分野の技能実習を扱う監理団体には、職務経験5年以上の介護福祉士が在籍していなければなりません。同時に、技能実習生の日本語検定試験対策の経験や実習生送出国での優良なコネクションなど、有形無形のノウハウも必要になります。そのため、介護分野の技能実習サポートに対応できる監理団体は限られており、地方によっては近くにそのような監理団体がない場合もあります。

技能実習生受け入れまでのポイント

外国人スタッフを受け入れるか検討する

介護分野で技能実習生を受け入れる前に、検討するポイントはいくつかあります。まず、そもそも外国人人材を介護スタッフとして受け入れるかどうかを考えなければいけないでしょう。外国人の介護スタッフを受け入れた施設でよく聞かれるのは、外国人スタッフは一般に感情表現豊かで明るく、施設の雰囲気も良くなるということです。他方、全てのスタッフに漢字を含む文章の読み書きができるようになることを期待するのは、現実的ではありません。そのため、スタッフ間の申し送りや介護記録の読み取りや作成などで、どうしても日本人スタッフのサポートが必要になる作業が残ります。また、基本的な生活感覚や習慣の違いから、利用者やスタッフとの間にトラブルが起きるリスクもゼロとは言えません。

他のビザを持つ外国人の採用も検討する

技能実習制度以外の採用方法についても、一通り検討しておきたいところです。最初に検討したいのは、日本人の配偶者としての在留資格を持っている人の採用です。日本の専門学校卒業後、介護福祉士試験に合格した外国人も近年増えてきており、当然採用を検討したいところです。というのも、こういった外国人の採用は、日本人職員の採用と同様に行うことができ、特別な手続や規制がないので、取り組みを始めるハードルがとても低いといえるでしょう。配偶者ビザの所持者や外国人介護福祉士試験は、在日経験も長く日本語も比較的流暢であるため、コミュニケーションの難易度も低めといえます。ただ、日本人の配偶者や外国人介護福祉士は、日本人同様自由に就職も転職もできるため、事業所側も相応の待遇で臨まないと、日本人職員同様に離職率が上がりかねません。現在外国に住んでいる人材を日本に呼び寄せるには、技能実習制度の活用のほかに、EPA介護福祉士候補者の呼び寄せ、特定技能ビザの活用が考えられます。

技能実習生を面接して採用する

技能実習制度の活用を決めたら、いよいよ実際に技能実習生を面接で採用することになります。技能実習生の採用面接には、現地面接、Web面接、監理団体職員による代理面接の3つの方法があります。それぞれの方法に一長一短ありますが、現地面接は渡航費や滞在日数がかさむ一方、実習生の母国の雰囲気や国民性を直に感じるためにも有益です。技能実習生の受け入れ開始後しばらくは現地面接を行うのが良いでしょう。なお、現地面接を実施する際は、監理団体側で移動や宿泊等のアレンジをすることがほとんどのようです。

実施中は技能実習計画に従う

技能実習生の入国後2か月間の研修を受けた後、いよいよ事業所での技能実習がスタートします。技能実習生は就労することができますが、業務の内容は、実習開始前に提出する技能実習計画に従う必要があります。技能実習計画上、身体介護に割く時間を総労働時間の50%以上、掃除や洗濯等の身体介護以外の業務に割く時間を総労働時間の50%未満とすることが求められています。もっとも、介護現場の状況はその日その日で変わるのは役所も理解しており、完全に技能実習計画通りに実習しなくてはいけないわけではありません。ただ、技能実習計画とあまりに大きく乖離した実習は当局による調査の対象になりますので、実際の実習を実習計画と一致させる意識が常に必要です。

技能実習は最長5年まで延長可能

技能実習生は、最初の来日時に、期間1年の技能実習1号ビザを発給されます。その後、来日1年後の審査を経て、期間2年の技能実習2号ビザの発給を受けます。合計3年の実習が終了した後、さらに期間2年の技能実習3号ビザを申請することができますが、その際必ず一度出身国に帰国しなくてはいけません。なお、技能実習2号ビザ申請時、技能実習3号ビザ申請時には、全国共通の技能実習評価試験を受験する必要があり、ある程度の対策も必要です。また、技能実習2号までを終えた段階で特定技能ビザへの切替を申請できることは、既述したとおりです。

まとめ

制度の特徴をよく理解した上で実習生受け入れの検討を

介護の現場に技能実習生を受け入れることは、若くて活力のある人材に長期的なスパンで働いてもらえる点で魅力的な選択肢です。他方で、技能実習生は必ずしも日本語能力が十分でないために、コミュニケーション上の配慮が必要になります。技能実習生の受け入れに伴い、こなさなければいけない手続上の負担も決して無視できません。介護事業所にとっては可能性が大きい一方、一定の準備や負担が必要になる制度なので、制度の特徴をよく理解した上で技能実習生の受け入れを検討したいものです。

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