ターンアラウンドマネージャーとは【実務内容や年収などを紹介】

記事更新日:2021年06月11日 初回公開日:2021年02月16日

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「ターンアラウンドマネージャー」という職業をご存知でしょうか?ターンアラウンドマネージャーとは、 経営破綻した企業または経営破綻寸前の企業の再生を請け負うことを目的として雇用される人材のことです。かつて経営状態が悪化した日産自動車をV字回復させたカルロス・ゴーン氏は、日本でよく知られているターンアラウンドマネージャーの1人だと言えるでしょう。それではターンアラウンドマネージャーとは具体的にどんな職業なのでしょうか。本記事ではターンアラウンドマネージャーについて詳しく解説します。

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ターンアラウンドマネージャーとは

経営破綻した・経営破綻しそうな企業を再生する人材

ターンアラウンドマネージャー(turnaround manager)とは経営学用語の一つで、危機に直面している企業をあらゆる観点から再建を行う企業再生請負人のことです。TAMと略されることもあり、多くの場合は企業の最高経営責任者として就任します。2003年4月に産業再生機構が設立されたことをきっかけに近年注目度の高まっている職業だと言えるでしょう。ターンアラウンドマネージャーは企業再生のプロフェッショナルとして、実践的な知識とノウハウで様々な企業をサポートしています。

ターンアラウンドは事業再生や経営改革のこと

そもそもターンアラウンド(turn around)とはどういう意味でしょうか。直訳すると方向転換という意味で、ビジネス用語では企業再生や事業再生に欠かせない取り組みのことを指します。問題を抱える企業に投資した後に行う設備投資や研究開発強化など、如何に事業を伸ばしていくかという中長期目線の施策になります。ターンアラウンドと類似する言葉としてワークアウトがありますが、過剰債務や固定費の削減といった短期目線で行われる財務面のリストラのことを指します。

ターンアラウンドマネージャーの目的

企業の経営再生

ターンアラウンドマネージャーの目的は、経営破綻や業績の悪化した企業および今後の業績悪化や経営破綻が予想される企業を再生・回復させることです。携わる範囲は財務や人事におけるコストカットやリストラに留まらず、事業・経営・組織・収益といった業績不良の企業が直面する本質の部分に正面から切り込みます。そして新規開拓や設備投資などさまざまな具体的な施策を行うことで、中長期的な企業価値の向上を目的としています。

ターンアラウンドマネージャーが注目されるようになった背景

経営の複雑化

ターンアラウンドマネージャーが注目されるようになった背景には、近年の経営の複雑化があります。1990年代に起きたバブル崩壊により経営倒産や再生を急ぐ企業が増加。当初は親会社やメインバンクなどから出向を命じられた経営者人材が、債権放棄や資産売却など財務処置を中心に事業再生を行っていました。しかし2000年代以降のインターネットの普及やグローバル化の加速により経営はより複雑に。従来の再建案に留まらない高度なスキルをもつ人物が求められるようになったのです。

事業再生ビジネスの増加

ターンアラウンドマネージャーが注目されるようになったもう一つの背景としてあげられるのが、事業再生ビジネスの増加です。バブル経済の崩壊によって、多額の不良債権を抱えた企業が相次いで経営難に陥る事態が起きました。そこで2003年に産業再生機構が設立され、これを機に事業再生を専門的に行う人材を企業の外部から送り込む事業再生ファンドビジネスが増加。それに伴い高い専門スキルを持つターンアラウンドマネージャーの需要が高まったのです。

ターンアラウンドマネージャーの実務

企業を再生させるためのあらゆる業務が含まれる

財務

ターンアラウンドマネージャーは、経営破綻した企業およびそのリスクを抱えている企業の経営を全体的に改善させるためにも、多角的な観点から実務をアプローチします。それは多くの場合、主にトップダウンによる「財務」、「組織」、「事業」の三方向からの改革となるでしょう。中でも債権放棄や資産売却そして事業部の売却といった「財務」は、ターンアラウンドマネージャーの豊富な専門知識と経験により戦略的な収益改善策が実施されます。

組織

次にターンアラウンドマネージャーが企業を再生させるための実務として「組織」があります。従来は、ターンアラウンドマネージャーの実務の多くは財務に限定されていました。しかし現在では、これまでのしがらみに囚われず新戦略を描いて軌道に乗せることが要求されるようになりました。そのため財務に強いことはもちろんのこと組織改変や企業文化の再構築などによる大胆な施策を実行し、組織力を高めることが重要となっています。

事業

ターンアラウンドマネージャーが企業を再生させるための三つ目の実務として「事業」があげられます。経済成長率が低い状況下では、現状を正しく把握した上で成長戦略を新たに作り直さなければ高い成長力を取り戻すことができません。経営戦略刷新や営業、取引先の絞り込みや取引条件の見直しなど、事業に関するこれまでのあり方を見直し、改革のグランドデザインを描き直す必要があります。それらを具体的な戦略に落とし込んで、多くの人を巻き込みながら企業再生を実行するのです。

ターンアラウンドマネージャーに必要な能力やスキル

決断力

経営破綻した企業を再生するために雇用されたターンアラウンドマネージャーに求められるスキル、それは「決断力」です。企業の再生には、従業員のリストラや事業部の統廃合など極めて厳しい選択や判断を迫られる場面が多く、それは想像を絶するものです。企業再生とは決断の連続だといっても過言ではありません。どのような局面であっても、企業の再生にとって最善なのであれば冷静で強く固い意志とスピード感をもった確かな決断力が不可欠なのです。

リーダーシップ

ターンアラウンドマネージャーには、強い「リーダーシップ」も必要なスキルです。それも類まれな鉄の意志を持った強力なリーダーシップです。企業は経営破綻あるいはその寸前の状態にあるため、従業員のみならず株主や経営陣、顧客や取引先など内外でその動揺が広がっています。そんな中たった一人で未知のその組織に入った上で、その組織を従え大幅な改革や痛みを伴う変革を行うのです。強力なリーダーシップがないことには企業再生という難題を解決することはできないでしょう。

財務などの専門知識

的確な決断力や超越したリーダーシップもさることながら、企業再生を実現させるためには生きた「専門知識」が求められます。債権放棄や資産・事業部の売却といった財務に関する知識から、企業経営に関わる全方位的な知見。組織改変や全体のスリム化を図るためにも、その企業の強かった分野や負債を抱え込むに至った理由といった会社の長所と短所を客観的に分析します。ありとあらゆる場面でこれまで蓄積したターンアラウンドマネージャーの高いノウハウや専門知識が発揮されます。

ターンアラウンドマネージャーの年収

企業の規模や経験によって様々

ターンアラウンドマネージャーの年収は、企業の規模や経験によって様々で大きくばらつきが出てくるのが実態です。多く場合は経営コンサルティング企業で就業し550万円以上を稼ぐ職種だと言われていますが、成果によっては1000万円以上の高額報酬を得る人材も存在します。冒頭でもご紹介した、かの有名なカルロス・ゴーン氏の2017年の役員報酬は10億98百万円。ゴーン氏の件は例外ではありますが、現状の日本ではプロとしてのターンアラウンドマネージャーの絶対数が不足しており将来性は有望とされています。

ターンアラウンドマネージャーの起用方法

コンサルティング会社の利用

ターンアラウンドマネージャーの起用は、客観的な視点から判断するためにも外部から招くことが望ましいでしょう。その場合、事業再建専門のコンサルティング会社の利用が有効です。事業再生に必要な知識や経験を持つプロフェッショナルが派遣されるため、納得の行く企業再生および改善が期待できます。またターンアラウンドマネージャーは依頼主である企業経営に直接入り経営の実態調査や分析そして事業再生計画の策定や実行まで担うため、費用対効果も高いと言われています。

ヘッドハンティング

主に外資系企業で取り入れられている方法としてヘッドハンティングがあります。ヘッドハンティングとは、高い実績を残した経営人材を外部からスカウトし自社に引き入れる方法です。売上高や事業・債務規模が大きい大企業はこちらを採用することが多く、事前に一定の報酬を提供もしくは成果に応じて成功報酬を支払うことが一般的。そのため企業が自ら選んだ腕利きの人材を起用できるメリットがあり、日本企業がトップに外国人経営者を招き入れるケースが増えています。

ターンアラウンドマネージャーに役立つ資格

ターンアラウンドマネージャー

養成講座の受講が必須

ターンアラウンドマネージャーになるには、経営全般の知識を学んだ上で実務経験を積むことは当然のことながら関連資格の取得も大いに役立ちます。NPO法人金融検定協会認定の「ターンアラウンドマネージャー(TAM)」資格は、企業再建・承継コンサルタント協同組合(CRC)による養成講座を受講後に実施される試験に合格すると取得可能です。法務・財務・税務の専門知識にはじまり事業支援や金融についての知識など、この職業を目指すうえで必ず取得しておきましょう。

中小企業診断士

「中小企業診断士」の資格を有しているターンアラウンドマネージャーも数多くいます。この資格は経営コンサルタントを認定する唯一の国家資格であるため、ビジネスパーソンが新たに取得したい資格として名前を聞くことが多いかもしれません。中小企業診断士の学習をすることによって、企業の経営に関わる知識を横断的に身につけることができるため、キャリアアップやスキルアップなど今後の幅広い仕事で活かせるのではないでしょうか。

認定事業再生士

そのほかにも日本ターンアラウンド・マネジメント協会が実施する「認定事業再生士(CTP)」は、事業再生に関して国際的に通用する高度な知識と経験を持つことを証明する資格になります。試験科目には、法律や経営・会計・財務の三つがあり、1科目ごとの受験も可能。試験は年1回の実施となります。ただし受験資格には3年以上の実務経験および5件以上の事業再生実績、正会員3名の推薦が必要になるなど条件があるため、計画的な取得を目指しましょう。

まとめ

ターンアラウンドマネージャーに対する需要は今後も高まる

現代の日本経済においてさらなるグローバル化やIT化など、外部環境が変化するスピードは加速そして複雑化しています。それは変化に対応できない数多くの企業の淘汰を意味します。時代の急激な変化は、会社の改革も小手先だけの技術では通用しなくなっているのです。このような状況下では必然的に企業を再生するターンアラウンドという言葉を聞く機会、そしてターンアラウンドマネージャーが活躍する機会は増え、需要は今後も高まるに違いありません。

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