記事更新日:2023年03月31日 | 初回公開日:2023年03月31日
用語集 人事・労務お役立ち情報 グローバル用語解説働きアリの法則とは、1つのアリの集団があったとき、よく働くアリは2割だけで残りの6割は普通に働き、残りの2割は殆ど働かないという法則です。2-6-2の法則とも呼ばれ、これはビジネスや教育の場においても同様のことが起きていると注目されています。会社組織では、2割はよく働く社員で残りの6割は普通に働き、残りの2割は殆ど会社に貢献しないと言われます。アリの世界では、よく働く2割のアリによって80%の仕事が行われ、会社では2割のよく働く社員によって成果の80%を生み出すと例えられる法則です。
実験では普通に働いている6割のアリや、よく働く2割のアリだけでグループを形成しても、2割のアリがよく働き8割の仕事をこなしてしまうことが分かりました。驚いたのは、よく働くアリのグループから、2割の働かないアリが現れたことです。なお、働きアリの法則が状況に変化が生じても通用する理由は、反応閾値の差が原因だと言われています。よく働くアリの中でも反応の差によって序列が決まり、仕事量で区別したアリの割合は、2-6-2で変わらないという結論に至ります。
同じように2割の殆ど働かないアリだけでグループを作っても、2-6-2の法則は変わらず、2割だけで8割の仕事をこなします。ただし大きな発見は、別のグループでは働かなかったアリの中から、よく働くアリと普通に働くアリが現れたことです。また仕事量を比較すると、全てのグループが100匹のアリで構成されると仮定すれば、よく働く2割のアリの仕事量は1匹あたり4.0%になります。対する6割のアリは1匹あたり約0.33%と10分の1しか仕事をせず、残りの2割に至っては殆ど仕事をしていないことが分かります。
働きアリの法則は、北海道大学で進化生態学について研究する長谷川英祐氏が率いる人たちによって実験が行われました。人工的にアリのグループを多数作って観察しましたが、どんなグループを構成したとしても、2-6-2の比率は変わらないことから、働きアリの法則が証明されました。長谷川氏によると、3種類のアリの違いは反応閾値にあるという結論に到っています。反応閾値とは、反応するきっかけとなる刺激の限度のことで、この数値が低いアリほど良く働くということです。
働きアリの法則に良く似たパレートの法則があります。パレートの法則は、2割の人間によって8割の売り上げを占めているとか、2割の商品の売り上げが全体の売り上げの8割に及ぶという経済社会における集団が生み出す成果に注目した経験則です。働きアリの法則も2割のよく働くアリによって80%の仕事が行われることから、パレートの法則と同一視されることも多くあります。しかし働きアリの法則は仕事量を比較した実験結果から得られた法則であり、成果に注目した経験則とは似て非なるものとされています。
アリの世界やビジネスの世界において2割が働かない理由に、行動が早い人に仕事が集まることが挙げられます。仕事が早い人は会社の上司にも好かれる傾向にあり、必用なときまでに仕事を済ませてくれるため、行動の速い人に仕事が集中します。最も腰が重く仕事に取り掛かるのが遅い人には、たとえ能力があったとしても仕事を頼むことをためらうこともあるでしょう。2割のアリや社員が働かない理由には、行動の速い2割と6割だけで仕事が完遂されてしまうからだとも言われています。
働かないアリが2割いる理由について長谷川氏は、グループ内での必要性を語っています。2割のアリは6割のアリの10倍以上の仕事をこなしており、疲れて休まなければいけないこともあります。アリの世界では仕事を休むと組織の崩壊にもつながるため、交代要員として2割の働かないアリが待機しているというものです。実際に働くアリが動けなくなったときには、いつもは働かないアリが働くようになっているという調査結果もあります。組織を維持するために、2割の働かないアリは必要不可欠な存在だということです。
企業においても、働きアリの法則と同様に、上位実績の2割の社員は自ら進んで仕事を行なうというデータがあります。2割の上位社員は会社にとって重要であり有益なものですが、もっと高い目標を持ってもらうことで会社の発展につながります。ただし肉体労働については限界がありますので、高い目標をアイデアなどで克服するように指導して下さい。互いに意見交換する場所なども設けて、どうすれば効率的に目標が達成できるかを議論してもらい、より高い目標に向かってもらいましょう。
会社においても中間層のアリと同じように、普通に働く社員が約6割いると言われています。中間層の社員は全体の6割も占めるため能力の差も大きく、上位に下位層に近い人まで様々です。そこで経営者側としては、個々に合った適切な少しだけ高いハードルを指標に持たせることが重要です。上位の能力を持つ社員には、上位グループに入れて経験を積ませることも良い方法と言えます。上位の社員がどのような考え方と方法で重要な仕事をしているかを知り、自分も出来るようになりたいと思ってくれるように指導しましょう。
働きアリの法則における下位の2割にあたる社員の方々は、自分が何をしたらいいのか分からない人も多くいます。自ら仕事を見つけて行動に移せない人も多いため、個々に小さな課題を与えることが効果的です。また、下位2割の人だけで発言したりする場所や勉強会を行うことも有効と言えます。その場所から上位2割のリーダー的な発言者と6割の一般的な参加者が発生するからです。残りの2割の社員には、まずは小さな課題をこなしていくことで、仕事への自信と自ら動こうとする強い意思を育てるようにしましょう。
働きアリの法則では、アリはグループのために働いています。会社も魅力的な組織となり、組織のために働きたいという社員を育てなければいけません。そのためにも繰り返しになりますが、魅力ある組織となることが重要です。個々に合った適正な人事評価や、それに見合う給与や福利厚生などの待遇も愛社精神に繋がります。他にも、この会社に入ればキャリアアップができるなど、従業員に選ばれる会社になれば、必然的に社員と企業のエンゲージメントを高めてくれることでしょう。
2-6-2の法則は、個人の仕事量の調整にも役立ちます。人間が100%の能力を発揮できる時間は限られています。最も効率の良い仕事量の配分は、100%に近い能力での仕事の時間が2割、10~50%程度の仕事が6割、残りの2割は休憩にあてることです。これは学生の勉強時間などにも当てはまります。2割の時間だけ特に集中して勉強し、6割は淡々と普通に勉強する。残りの2割は休憩にあてることで、2割の集中した学習だけで8割の結果に繋がるとも言われています。
働きアリの法則を活かした組織形態にオーケストラ型があります。一人の指揮者に従って演奏するように、強いリーダーシップを発揮するリーダーの指示により、個々の持つ能力を十分に引き出すのがオーケストラ型組織です。この組織形態では、リーダーの持つ役割が大きく、リーダーの資質が組織の能力に大きく影響を与えることは否めません。また、個々の楽器演奏者である各部署の社員は、リーダーおよび他の演奏者である他部署の社員へのリスペクトが必要です。大きな組織で変化する状況に対応するには理想の組織形態と言えるでしょう。
オーケストラ組織と対照的なのが、即興で相手の演奏に合わせていくようなジャズ型組織です。ジャズ型組織では特定のリーダーを持たず、その場の状況などを見てお互いの仕事を補助するなど、状況の変化に応じて対応を変化させます。ジャズ型組織は変化する現代にはピッタリの組織作りといえます。しかし個々の対応能力や技術と経験などが伴うことが条件であり、誰でもできる簡単な組織ではありません。またジャズ型組織を成功させるには、組織内の信頼関係を築いていることが絶対条件になります。
働きアリの法則を仕事の場所で活用するには継続する仕組みを整えることが重要です。2-6-2の底上げを図ろうと指導にあたっても、時間の経過によってまた2-6-2の状況に戻ってしまうことが想定できるからです。また働きアリの法則から学ぶ代替え要員については、個体差が少なく単純作業をするアリの集団では簡単に代わりとなれます。しかし人間社会では複雑な仕事の方が多く、簡単には覚えられないのが実状です。働きアリの法則を有効に活用するために、組織全体の仕組みを整えていくことも考えておきましょう。
"働きアリの法則は仕事の場所で簡単に応用できるものではありません。とくに重要と考えられる働かない社員を働かせるようにするには、かなりの労力と根気が必要です。周囲に任せっきりであった気持ちを取り払い、自ら率先して働くように仕向けるのは至難の業と言えます。2割の働かない社員だけを集めて議論させることで、2割と6割の人にやる気を出させ、最も腰の重い社員を限定して指導することなどもアイデアの1つです。試行錯誤しながらも地道にアクションを続けることが大事です。
働きアリの法則はアリの生態から発見されたものですが、企業経営に大いに役立つと期待されています。働きアリの法則を学び、個々に合せた指導を行うと同時に組織改革をすることで企業は成長することができるでしょう。ただし目指す組織の姿は、それぞれの業種や規模などによって異なり、自社に最も適するかたちを選ぶべきです。また働きアリの法則は、強い団結力と経営者と社員の信頼関係があってこそ成りたっています。一致団結できる組織を作り、働きアリの法則を活用して円滑な企業運営を行うことで、更なる繁栄を目指しましょう。
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