記事更新日:2020年09月04日 | 初回公開日:2020年08月21日
日本の英語教育 グローバル経済「グローバル化」という言葉が使われ始めて久しいですが、英語の重要度が高まり続けているのは周知の通りでしょう。ビジネスに限らず海外との人・モノ・情報のやりとりが日常的になり、共通言語である英語はその存在感を不動のものにしました。これほどまでに日常的な英語の活用が求められている時代はありません。そんな中、日本の英語教育の現状はというと、この何十年も大きな変化がなく、戦後から代々続く「日本式教育」を続けてきました。変化の早い社会に追いつくためには英語が必要不可欠であるということは承知しながらも、それを学ぶ・教える教育は不動のものだったのです。
この状況を変えようと、2020年、日本政府は戦後最大の教育改革に着手し、学習指導要領が約10年ぶりに大幅改訂されることとなりました。「急速に進むグローバル化社会において、将来的に活躍できる存在を育てる」というのがこの改革の大きな目的であるため、英語教育こそが改革の目玉。指導要領の中には至る所に「コミュニケーション」という文言が見られ、従来の読み書きに加え聞く・話すに力を入れようという狙いが伺えます。これにより全国の国立・公立・私立学校に指導が及ぶこととなり、小学校は2020年から、中学校は2021年から、高校は2022年から、全面的に実施となります。
この改革により小学校でも英語が必修となり、小学校3年生から「外国語活動」が、小学校5年制から「英語」の授業が始まるようになります。指導計画によると小学校では「音声」指導に徹底し、教科としての「英語」というよりは「英会話」教育に主眼を置くのだとか。アルファベットの文字や単語の表示もあくまでも音声の補助的な意味合いのようです。ノンバーバルコミュニケーションとしてジェスチャーの活用もポイントになっています。早い段階から英語を聞き、話すことに慣れさせることで、コミュニケーションへの抵抗をなくすような学習環境作りに取り組むよう改良がなされました。
ちなみに、日本で本格的に英語教育が開始されたのは第二次世界大戦後です。1854年に日米和親条約が締結され、鎖国が解かれた日本には西洋から海外の様々な文化が入ってくるようになり、明治政府は全ての制度の教育を近代化していたといいます。しかし、戦争中はアメリカ・イギリスなど敵性国の言語である英語は排斥され、外来語は全て言い換えられるようになりました。戦後に再びアメリカ支配のもと英語教育が始まり、現在に至ります。また、戦前はイギリス英語が主流でしたが、戦後からはアメリカ式英語が教えられるようになりました。
日本の英語教育の違いとして、日本語で英語を教えている、という点が挙げられます。これは私たちにとっては普通の感覚ですが、実は他のアジア圏では英語を英語で教える、さらに数学など他の教科も英語で教える、というのが一般的。アジアの諸外国では戦後英語教育を開始する際、母国語に英語に対応する言葉がなかったためです。一方、日本では明治期から専門用語の和製漢語化が顕著であり、翻訳書など日本語における教材・専門書が充実していました。現在では日本でも全て英語で授業を行う学校も出てきており教育方針が転換されつつありますが、他国との違いとして知っておきましょう。
これまでの日本の英語教育を振り返ると、日本人は、中学・高校・大学と10年間も英語を勉強しているのにも関わらず、「英語が身についていない」人が多いと言われます。身についていない、というのは英語を活用できるかどうかという基準での意見であり、書かれている英語や、英語で話しかけられた場合はなんとなく意味も分かる、内容の見当はつく。しかし、いざ自分が話そうとすると言葉が出てこない、すなわちコミュニケーションが取れない、という状況だということです。10年間勉強した英語が使えるものになっていないという指摘は、多くの日本人にとって耳が痛い話でしょう。
一般的な学校で平均的に英語の授業を受けた場合、中学校で265時間、高校で約360時間――6年間で合計約625時間も、英語を学んできたことになります。それにも関わらず、日本人の平均的な英語レベルは他国と比べてかなり低い評価を受けています。現に、TOEFL IBTテストの平均スコアで比較すると日本はアジア29カ国中26位という悲惨な状況。これは日本の英語教育に問題があるからだと言われ続けてきました。日本人は失敗や間違いを恐れるため自ら発言ができない、だとか、そもそも学習時間と学習量が圧倒的に足りない、だとか、日本の英語教育に関する議論は枚挙に暇がありません。
日本の英語教育が身についていない原因についても考えてみましょう。原因の一つはやはり、教育の段階で実際に使う場面が想定されていない点。日本の英語教育はどうしても受験英語に偏っており、英語を勉強するのはテストで良い点を取るため、と考える学生も過半数を超えています。本来、英語はコミュニケーションツールですから自ら話したい、使いたい内容を勉強すべきにも関わらず、多くの学生は教えられたものをそのまま覚える、という受け身の姿勢になってしまっているのです。やはり英語は受け身の座学だけでなく、実際に使う実践を積み重ねながらの教育でないと習得できません。
先述の内容とも重なりますが、日本の教育場面では学んだ英語をアウトプットする機会が極めて少ないです。特に話すアウトプット、会話練習の機会はほとんど存在せず大きな問題とされています。近年では各学校に英語学習の補助をするためのALT(Assistant Language Teacher)が常駐していることが多いですが、アウトプットの観点で上手に活用されているとは言いがたいですね。テストで使える英語の習得に多くの労力と時間が割かれ、実際に使ってみる、英語でコミュニケーションを取るという観点が長年蔑ろにされてきたことが、日本の英語教育の弱点だといえるでしょう。
とはいえ、日本の英語教育も全て悪いという訳ではありません。受験英語において英単語はスペルと意味を正確に覚えることが求められるため、必然的に日本人のスペリングや語彙力は高いと言われています。かつて日本の英語教育は「文献を理解し取り入れる」能力を育成するものとされていましたから、そのためには重要な観点ですね。しかし、これが実際の会話等でどう活用するかが教えられないまま、スペルと意味を丸暗記している実情は残念です。現代社会においてはコミュニケーションの場で活用できる、「実践語彙」が求められているのでしょう。
同様に、日本の英語教育は基本的な文法レベルの底上げに貢献しており、その点は評価ができます。日本における伝統的な文法・読解中心の英語教育は「文法訳読式」と称されますが、これがなければ日本人は日本語と全く異なる高度で精密な文法知識体系を理解することは難しかったのかもしれません。ただ、日常の英会話では、少々時制を間違えたり、前置詞が抜けたりしても、伝わりさえすれば問題ない、というのが現在の考え方です。伝統的な日本の英語教育の良さは活かしつつ、より良いコミュニケーション能力を身につけさせるためには何が必要なのでしょうか。
参考として他アジア諸国の実例と比較してみても、日本は他国よりも英語教育に遅れをとっていることは間違いないでしょう。アジアの非英語圏では1996年にタイが、そして韓国では1997年より小学校での英語教育を必修化しており、続いて中国・韓国も2001年より導入しています。またいずれの国も小学校3年生から授業スタートとしているようです。一方、日本は2011年に小学校5年生からやっと導入が開始され、この度の改革に至りました。導入時期が遅いながらも、児童生徒には英語に好意的な意見が多く上がっているようです。
さらに、英語の学習時間という観点でも、日本は他アジア諸国に大きく差をつけられてしまっています。特に小学校における英語の授業数は、日本の小5・6では週1コマであるのに対して、中国では週4回以上、韓国では週3回以上、台湾で週2回以上と、その時間は倍以上です。特に中国では小3〜4時期は短時間授業をメインに実施し、英語に触れる頻度を増やそうとしていることが分かります。中学校、高校課程においても日本においての英語授業時間数は他国より少ない傾向にあり、これが日本人の英語教育が進まない原因の一つなのかもしれません。
文部科学省では問題とされている日本の英語教育を改善するため、指導要領を大きく改めました。英語に限らず外国語のコミュニケーション能力を「聞く・話す・読む・書く」の4技能という点から養うというものです。専門のALT講師を活用し、想定シチュエーションにおいてアドリブで質問させる、日常生活に関するスピーチの聞き取り、なども内容に盛り込まれています。4技能を総合的に活用した基本的な英語能力を身につけることで、中学校からのより高度な学習に繋げられるカリキュラムとされています。
この改革において、小中高それぞれの教育目標が4技能の観点から「英語を使って何ができるようになるか」という具体的な指標で示されるようになりました。これにより、各学校が具体的な学習到達目標を設定し、英語力に関する達成状況を明確に検証できるようになります。目指すべき英語力としては中学校卒業段階で英検3級程度以上、高等学校卒業段階で英検準2級程度~2級程度以上を達成する生徒割合が50%以上。この実現に向けて4技能ごとの到達レベルを明示しており、教員はにとってもより授業設計や採点がしやすくなったといえます。
文部科学省がこれだけの改革を進めていく中、日本人の英語レベル全体の底上げが期待されています。教える立場にある大人も一人ひとりが自主的な英語習得が求められているのではないでしょうか。もちろん英語が使えるだけでは不十分ですが、21世紀において英語は国際的共通語であり求められるコミュニケーション能力の一つとなりつつあります。英語が標準装備となればグローバル化、IT化社会の中、国を超えて知識や情報を入手・理解し、さらに発信・対話することができるでしょう。この機会にご自身の英語習得も見直してみてはいかがでしょうか。
「日本語+英語+さらに語学が堪能な社員の採用」「海外の展示会でプレゼンが出来る人材」「海外向けサービスのローカライズ出来る人材」「海外向けWebサイト構築・集客」など、日本語も堪能で優秀な人材へのお問い合わせが当社に相次いでいます。
グローバル採用ナビ編集部では外国人の採用や今後雇い入れをご検討されている皆様にとって便利な「就労ビザ取得のためのチェックリスト」をご用意いたしました。また、在留資格認定申請書のファイル(EXCEL形式)もこちらよりダウンロード可能です。
他社での事例やビザ申請の際に不受理にならないようにまずは押さえておきたい就労ビザ取得のためのポイントを5つにまとめた解説付きの資料です。
この記事を読んだ方は次のページも読んでいます。