科学的管理法とは?できた背景・メリットは?【導入事例や注意点を解説】

記事更新日:2020年12月15日 初回公開日:2020年11月16日

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現代の大量生産方式の礎を築いたといわれる科学的管理法。それは飛躍的な生産効率を生む方式としての称賛された反面、労働者を機械とみなす非人道的な管理法と批判された時期もありました。もちろん、質の良い製品を安価で多くの消費者に提供できるようになったのは、科学的管理法の偉業であることは間違いありません。産業革命以降、機械化急伸の反作用で成り行き経営による怠業の頻発した19世紀末の経営管理の停滞に、一石を投じた管理法なのです。ここではその賛否両論入り混じった科学的管理法について、その本質をまとめてみました。

科学的管理法とは

テイラーの科学的管理法

科学的管理法とは、20世紀初頭、アメリカの技術者であり経営学者であるフレデリック・テイラーが提唱した生産性の改善手法で、テイラー主義とも呼ばれています。工場労働者の主観的な経験や技能の上に成り立っていた作業を、客観的・科学的に分析、整理してまとめられた生産管理手法。科学的管理法は労働の能率を著しく向上させ、雇い主には低い労務費負担を、労働者には高い賃金支払を同時に実現することができるとする考え方です。

徹底した人間観察の成果

テイラーの科学的管理法は、徹底した人間観察の結果、次のような要素にまとめ上げられました。個人を大勢の集団の中で扱うと、志や自主性が失われる。新しい仕事に対しては、新旧の方法を自分で両方試さないと、本人は納得しない。安定高報酬の条件下では、新しい仕事の学習が速い。労働者は、生産性を向上させ、収入が高まることで成長し、生活を充実させ貯蓄を始める。しかし急激な賃上げは多くの場合労働者の成長につながらないなどです。

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科学的管理法の現状

要素ごとに見直された科学的管理法

テイラーの活動は後継者によって、そのデメリット要素が見直されて、新しいマネジメント手法が生み出されました。エマーソンは標準作業を発展させて標準原価計算を創案。また職能別職長制に代えて、生産ラインとスタッフ組織の採用を提案。ガントは差別的出来高給制に代わって、働きに応じて一時報奨金を出す課業賞与制を考案。ギルブレスの動作研究は後継者によって作業研究として発展し、インダストリアル・エンジニアリングを形成しました。

科学的管理法ができた背景・理由

その場しのぎの成り行き経営

当時、アメリカの経営者は、生産現場にあまり関わろうとせず、経験や習慣などに基づいたその場しのぎ的な成り行き経営が一般的でした。一方で生産現場では、熟練労働者に管理を任せる内部請負制度によって、1日の生産量を目分量で決めたり、カンや経験を優先。機械化の進む時代であっても、労働者の作業管理面では、決して効率的な生産体制ではありませんでした。また次の労働者の組織的怠業問題で、経営が行き詰まっていたのです。

組織的怠業の蔓延

産業革命により、1900年代初頭は機械化が進み、生産性は飛躍的に向上していった時代でした。当時は出来高給制度であり、労働者一人当たりの出来高も高くなり、賃金も上昇。すると賃金水準がある程度高くなると、労務費削減のために出来高単価を切り下げる経営者も出てきました。働いても出来高単価が下がるのでは、労働者は勤労意欲をなくし、組織的怠業も蔓延という結果に。単純に労働者が怠けていたわけではなかったのです。

科学的管理法の原理

課業管理

標準のノルマを優秀な工員の仕事量に基づいて決めることが、課業管理です。まず、工具、手順を統一し、熟練工か非熟練工かにかかわらず同一条件で働かせます。そして「唯一最善の方法」を確立。それを労働者全員に習得させます。ノルマを達成した場合は、単位あたりの賃金を割り増しして支払い、未達成の場合は単位あたりの賃金を割り引くのです。これはそれまでの出来高制賃金システムを改良したものであり、労働意欲を高めました。

作業の標準化

生産工程において、標準的作業時間を設定し、これに基づいて1日の課業を決定することが作業の標準化です。生産工程における作業を「要素動作」と呼ばれる細かい動作に分解し、その各動作にかかる時間をストップウオッチを用いて計測して標準的作業時間を算出。これは作業に使う工具や手順などの標準化のための研究といえるでしょう。作熟練工の効率性の高い動きをもとに、最も最適な必要な道具や作業手順を明らかにしました。

作業管理のために最適な組織形態

19世紀のアメリカの生産形態は、生産現場の特定の工程を熟練した工員が全てを管理し、職工を使って生産を請け負う制度でした。この「内部請負制」に基づいて現場が生産計画を決定していました。科学的管理法では、このしくみを変えたのです。生産計画を現場から分離し、計画立案と管理の専任部署を作り、「計画と実行の分離」を実現させました。また、そのための組織形態として、現代でいう「職能別組織」の原型を作ったといえるでしょう。

科学的管理法のメリット

大量生産方式への発展

自動車会社のフォードは1903年に創業しました。フォードは、ちょうど同時期に確立したテイラーの科学的管理法をいち早く実践し、自動車の大量生産方式で成功を収めました。当時の自動車は一般市民には手の届かない高級品。それをフォードは科学的管理法を応用することで、流れ作業を発案し、大量生産方式を確立。こうして科学的管理法はアメリカの機械産業の礎となるとともに、現代の大量生産方式基礎を作り、現代に受け継がれてきたのです。

産業の近代化の基礎

科学的管理法は、生産効率の向上という面で注目されましたが、マネジメント面も評価すべき点です。経営管理を学ぶときも、その歴史科目の中で科学的管理法を学習するはずです。テイラーはそれまでの経験などによる成り行き任せの経営に対して、仕事そのものを客観的なものとして分析を加えました。そして基準を作ることで生産性を上げたことは、それまでの経営方式には見られない偉業です。科学的管理法は、産業の近代化を基礎を構築したといえるでしょう。

科学的管理法のデメリット

人間性の軽視

科学的管理法は、あまりにも効率性を重視するために、労働者の人間性を軽視し、労働者を命令を受けて作業するだけの機械のように扱っているとみなす批判者も出てきました。当時は心理学や社会学の見地からの考察が無く、人権侵害に繋がるとして、多くの人に批判を受けてしまいました。こうした批判は、後の学者や経営者の努力で改善がみられ、現在の経営学の発展に繋がっているものの、労働組合の反発も誘発。実際に1910年代にはアメリカで反対運動が起こることもありました。

ホワイトカラーとブルーカラーの二極化

先述のように内部請負制度・徒弟制度の解体によって「労働力の使用権」が経営者に移行しました。また生産部門では、「計画と執行の分離」が行われました。これによって生産計画を現場から分離、つまり生産工程の作業者と、生産を計画し管理する生産管理者とに組織が二分化していくことに。これは生産管理近代化の基礎となりました。しかしこの「計画と執行の分離」によって、ホワイトカラーとブルーカラーの二極化が起こり、両極間で対立が深まる原因にもなってしまいました。

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科学的管理法の注意点

能力と実績の評価

その後、そのデメリットを補うため科学的管理法には修正が入ります。分解された要素動作ばかりを繰り返すような仕事の組み立て方は誤りとされました。まず、同じ作業も、繰り返すうちにより効率的な作業に気付く労働者もいます。その気付きによる作業の改良も取り入れるように修正されました。また計画と実行は二つの別の仕事と考えられていましたが、一つの仕事の二つの側面であるという考えに改められます。計画と実行は別物ではなく、結果は計画見直しに反映されるべきとされました。

適応力が低いことの見直し

テイラー・システムには変化に対して適応力が低いという批判を受けました。科学的管理法の基本には、仕事の手順を標準化し、その仕事に応じて賃金を支払うという仕組みがあります。これは、個々の作業を固定し、労働者が自ら環境変化に対応し、作業を改善して行くという活動を期待していません。要するにマニュアル通りに実行することが良い評価の原則。例外処理への臨機応変な対応や、マニュアルにない形で効率化するような成果を評価する仕組みは明確ではありませんでした。

科学的管理法を導入している企業

最速メソッドを作るマクドナルド

作業ごとの標準作業量が決定されると、つぎに課業を遂行させるためのマニュアルが作成されます。担当するものは誰であっても、同一の方法に従った作業を行うことが科学的管理法の原則。たとえば、マクドナルドでは、同一の製品やサービスを提供できるよう、厳しい品質管理がなされています。必ず品質が一定になるよう、製造工場や店舗において、製品仕様書を従業員に十分に理解させ、徹底した情報共有が行われている点にテイラー流の課業管理の発想が活用されているといえるでしょう。

トヨタの生産方式

戦後日本は、米国の物量作戦を支えた生産方式を熱心に学びました。トヨタも大量生産方式を推進するにあたり、科学的管理法を導入。トヨタはそれをさらに発展させ、期の計画を立て実際に行動し、その結果を見て次期の計画にフィードバックして行くことが管理するにあたって重要と考えました。「Plan, Do, Check, Action」を繰り返しまわして行く方法を確立。これをマネジメント・サイクルと呼称し、独自の品質管理を完成させ生産効率を向上させたのです。

科学的管理法を導入する流れ

長所を生かし短所を改めて導入

科学的管理法は、生産効率に効果的な反面、人間を機械のように扱うというニュアンスが助長されてきました。科学的管理法は労働者を機械とみなすことが本質なのだ、と誤解を受けやすかったといえるでしょう。この短所を改めて、長所に目を向けることが重要です。まず働き手が企業と最もよい関係を築き、成長し、反映することを目指す熱意が必要です。さらに人のことを個別に観察し、その人としての性質と個性を尊重する姿勢を持つ。非常に人間味あふれる、温かさを中心に添えるアプローチなどです。

まとめ

科学的管理法の導入で生産の効率化を高めよう

以上のように、科学的管理法は、19世紀末までの成り行き生産体制を反省し、人間の作業性を分析した画期的な生産効率改善手法です。一方で、当初は、人間の機械化への批判や、労使の対立を生みます。能力評価、労使間の調整、継続的なマニュアルの完全などで、後の経営者たちによって見直されてきました。現代においてもまだき成り行き生産体制に頼る企業は少なくありません。経営改善を進めるためには、科学的管理法の導入で自社の生産効率化を高めていくことも必要なのではないでしょうか。

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