記事更新日:2024年01月25日 | 初回公開日:2024年01月25日
用語集 グローバル用語解説 採用・求人のトレンド 人事・労務お役立ち情報不正のトライアングルとは、人が不正する仕組みをモデル化した理論です。企業内で起こっている内部不正の要因を分析した理論が「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルはアメリカの犯罪学者ドナルド・クレッシー氏によって提唱されました。内部からの不正は企業にとってセキュリティ上で大きな脅威の一つです。IPAが毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」では2022年に内部不正が5位になっており、毎年上位にランクインしています。
不正のトライアングルの要素となっているのは動機です。内部不正だけではなく人が何か行動を起こすときは、それによって成し遂げたい何かが存在しています。内部不正の場合は、「借金が沢山ありそれを返済するためのお金が必要」や「厳しいノルマから逃げたい」といったものが動機になる可能性があります。こういった動機を持っている人は、会社の機密情報を他人に売る・ノルマを達成したように見せるために粉飾を行うといった不正行為を行うかもしれません。
不正のトライアングルの要素の一つが機会です。機会とは、内部不正をを働くことが出来る環境を指します。もし従業員に不正を働く動機があったとしても、企業の統制や監視体制が万全に整えられていると不正を働きたくても働けません。そうではなく、重要な業務を一人で任されている・申請が形骸化しており中身まで確認していないといった環境であれば、不正を起こすことが可能です。重要情報を相互監視していない・経費申請のチェックが機能していない場合に不正を働きやすくなります。
正当化も不正のトライアングルの要素の一つです。きちんと理性をもって働けている人であれば、いくら借金を抱えていたりノルマが厳しく達成できないといった状況でも不正を働こうという思想にはなりません。しかし自分の中で不正を行う行為を正当化してしまうと、実行に移すようになります。周りもやっているようだから少しくらいバレない・給料をくれない会社が悪いといった心情です。経費を不正申請する人が沢山いる企業では、心理的ハードルも低くなります。
不正のトライアングルである動機が生じる原因は、不正を働かざるを得ない、不正をしてでも現状を打開したいという強い思いを持っている為です。企業への不満やプライベートでの問題など、動機になりうる原因は誰でも持ち合わせています。動機を持っていたからと言って、不正を働く人は極僅かです。実際に不正を働いてしまう人は、収入に見合っていない生活や多額の借金を抱えている人、他人より優位に立ちたいと思っているような人です。
不正のトライアングルが生じる原因となる機会が生まれる理由は、企業側の内部統制や監視が厳しくない事も上げられます。企業としてしっかりと監視や統制を取っている企業では、中々不正を働こうと考えても実行に移せないまま終わる場合があります。しかし企業で従業員が不正を働く訳がないと考えている場合は、統制や監視が甘くなってしまい内部情報を簡単に持ち出すことが可能です。セキュリティが甘いと、大きな動機を持っている人にとっては不正を働きやすい環境といえます。
正不正のトライアングルの要素の一つである正当化が生じてしまうのは、個人の資質における要素が強いといえます。正当化も動機と同じく、人によって判断が大きく分かれます。不正がばれた際に企業が受ける影響や自分が受ける制裁や刑罰を想像することが出来ない人が、自分自身に都合の良い正当化を行います。自信を正当化するまでのハードルの高さは人によります。通常であれば理性が働き踏みとどまれても、追い込まれていて正常な判断が出来なくなっている事も考えられます。
不正の対策を行う前に確認すべきことは、働きやすい環境を整備できているかどうかです。内部不正を働こうと考えている人は、プライベートで借金があるなどの場合もありますが職場環境に不満を抱えている場合もあります。客観的に見ても厳しいノルマを課せられており、ノルマが達成できないと叱責されるなどパワハラを受けている人は不正を行ってしまう可能性があります。追い詰められてしまうと、会社を困らせてやろうといった思考になってしまい不正を行う場合もあるため、まず環境を整える事が大切です。
不正の対策をする前に、職務や権限が集中していないかどうか確認しましょう。担当者一人だけで現金の取り扱いや会社の機密情報の取り扱いを任せている場合、他人の目がないためお金や情報を持ち出しやすくなります。また現金や商品が無くなっても在庫管理や棚卸が徹底されていない場合にも、気軽に持ち出しが行えます。そういった状況では機会を与えてしまうため、複数の社員で相互チェックを行う・監視カメラを付けるなど周りの目を増やすことが大切です。
風通しが良い職場環境になっているかどうか、不正の対策前に確認することも大切です。動機は個人の内発的なもののため、企業が把握・対策出来る事は殆どありません。その為、まず動機が生まれにくい環境にすることが大切です。風通しの良い職場は意見を発しやすく、周りの人との信頼関係など出来ています。そういった環境では不正を働こうとする人が生まれにくい傾向にあります。反対に同じ職場で働いているが会話がない・不当な扱いを受けているといった場合不正に繋がりやすくなります。
不正に繋がる動機を発生させないためには、動機を持ちにくい環境を整備することが大切です。先述したように、不正を働こうとする動機は個人の内発的な要素であり、誰もが持っている可能性が高いものです。その為、企業が対策するのは簡単ではありません。動機を持たないような施策を打つことは出来ませんが、持たせにくくする環境を整えることは出来ます。動機を持たせにくくするには、風通しの良い職場にすることです。従業員同士コミュニケーションが取れており、発言しやすい環境では動機を持ちにくくなります。
不正を防ぐための機会を作らないためには、セキュリティ対策をしっかりと行う事が重要です。働いている従業員の中に動機や正当化する理由があったとしても、不正を働くことが出来ない環境であれば不正はうまれません。重要な業務は一人に任せるのではなく複数人で分担する・会社が用意したUSB以外はパソコンに接続出ない内容にするなど様々な方法があります。しかし不正を防ぐためにあまりに規制や施策を厳しくしてしまうと、会社から信用されていないのではと思われる可能性もあるため注意が必要です。
正当化は個人の両親や価値観に依存している部分が大きいため、動機と同様に対策が簡単ではありません。自分の考えを正当化してしまわないよう知識を身に付けてもらうセキュリティ教育を行うのも、不正を防ぐための方法です。他の人もやっている・不正を働いてもばれないと考える意識が不正に繋がっていきます。企業内でセキュリティ対策やコンプライアンス違反についての研修を行う事で、不正をすると会社だけでなく家族にまで迷惑をかけるという事を認識してもらう事が出来ます。
実際に起こった内部不正に、地方自治体の廃棄ハードディスク転売事件があります。この事件は2019年に地方自治体が廃棄したハードディスクがネットオークションで販売され、ディスクの復元を行ったところ公的文書情報が発見されました。本来であれば、廃棄されるはずのハードディスクが廃棄業者の社員により販売された事件です。この事件では、小遣いを稼ぐために販売し管理体制がずさんで持ち出しが簡単だったことが問題とされています。チェック体制の甘さから内部不正に繋がりました。
実際の内部不正の事例として、通信教育大手の派遣社員による顧客情報流出があります。2014年に通信教育会社の顧客情報が、最大3,500万件流出した事件です。多くの消費者が被害者となり、世間を騒がせた事件でもあります。データベースの管理を請け負っていたグループ企業の派遣社員が、不正競争防止法違反で逮捕されています。逮捕された人物は多額の借金を抱えており、返済に充てたかったとしています。派遣社員で給料が少ないという思いがあった可能性が高く、貸与PCから容易に情報を持ち出せるようになっていたのが問題とされています。
大手証券社員による顧客情報流出も、実際に起きた内部不正の事案です。2009年に大手証券の顧客情報が150万人分流出したとされています。システム部門の社員が窃盗及び不正アクセス禁止法の容疑で逮捕されました。この情報流出を起こした犯人も、キャバクラ通いで借金がありそれが動機になったとされています。対象の社員は毎日のサービス残業を行っており、待遇による不満から内部不正を働いた可能性が高いと言われています。内部事情をよく知っており、異動した社員のIDがそのまま放置されていたずさんな状況が不正に繋がっています。
島根県立中央病院職員による患者情報流出事件も、実際に起こった内部不正です。2020年に患者約2万5000人分の個人情報が記載された電子カルテ用のパソコン1台を紛失したことにより、個人情報が流出しました。電子カルテ用のパソコンだったため、氏名や年齢だけでなく検査結果なども含まれており大きな問題となりました。パソコンが壊れたため修理に出した所、半年たっても返却されたなかったため業者に問い合わせましたが受け取った記憶はなくそのまま紛失しています。双方の管理がずさんだったことにより発生した事案です。
不正のトライアングルについての要素や、不正が生じる原因・不正を防ぐための施策などについて解説しました。不正のトライアングルは、動機・機会・正当化が揃う事で内部不正が発生するという理論です。そのため、この3つの要素の内1つでも防ぐことが出来れば、内部不正に繋がらない可能性が高まります。企業として対策を行いやすいのは機会を発生させにくくすることですが、職場環境を整えることで他の要素も発生しにくくすることが可能です。不正のトライアングルをしっかりと理解し内部不正を防止しましょう。
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