記事更新日:2025年06月17日 | 初回公開日:2025年06月17日
用語集 グローバル用語解説 人事・労務お役立ち情報ランチェスター戦略とはランチェスターの法則を応用した経営戦略を指します。起源は第一次世界大戦時にイギリス人ランチェスターが提唱した、兵力数と武器性能が戦闘結果に与える影響を示す数理モデルです。戦後日本のビジネス界で注目され、企業の販売競争や市場シェア獲得のための実践的な戦略として発展しました。自社の市場ポジション(強者か弱者か)を分析し、限られたリソースを集中投下して競合優位性を築くための戦術(地域限定、一点集中など)を導くのに役立ちます。
ランチェスターの法則とは、第一次世界大戦に戦闘力と戦い方を踏まえ考えられた法則です。提唱者であるイギリスの航空工学研究者、F.W.ランチェスターは当時の空中戦などを詳細に観察しました。兵力の数だけでなく個々の武器効率(性能)や、戦闘が接近戦か広域戦かといった戦闘形式と、敵に与える損害や自軍の損失の関係を数理モデルで説明しようと試みました。単なる経験則ではなく、戦争という複雑な事象を科学的・定量的に捉えようとした画期的なアプローチといえるでしょう。
ランチェスター第一法則は別名「一騎打ちの法則」「接近戦の法則」とも呼ばれます。兵士が個々で戦う、局地的で直接的な戦闘における損害の法則です。剣や槍などを用いた古典的な戦闘や視界の悪い場所での接近戦、あるいは小規模なエリアでの競合といった攻撃力が分散されにくい状況です。戦闘力は単純に武器効率(質)✕兵力数(量)で表され、兵力差が直接的に戦闘結果に反映されやすいのが特徴といえるでしょう。損害量は敵の数に比例し、兵力が多い方が有利なシンプルな法則です。ビジネスシーンでは、小規模市場でのシェア争いや営業個人の力量が問われる場面に応用できます。
ランチェスター第二法則は「集中効果の法則」「確率戦の法則」とも呼ばれています。近代兵器のように広範囲に攻撃が可能な状況や、複数の味方が一斉に敵を攻撃できる集団戦での法則です。遠隔からの射撃戦や、多数の兵器が広範囲に展開する近代戦などが該当するでしょう。最大の特徴は、戦闘力が武器効率(質)✕兵力数の二乗(量)で計算される点にあります。兵力数が2倍になれば戦闘力は4倍になるという「二乗効果」が働くため、数の差が指数関数的に影響を与えます。広告宣伝による広域へのアプローチや、マスマーケットでの競争、技術開発競争など投入するリソースの集中が優位性を生み出す分野で応用されます。
市場における強者のランチェスター戦略は、弱者の差別化を封じ付け入る隙をなくすこと、といえるでしょう。弱者が新しいアイデアやニッチな製品・サービスで差別化を図った場合、強者は素早く察知して類似のものを圧倒的な物量や販売網、ブランド力で市場に投入します。「ミート戦略」とも呼ばれ、弱者が生み出した独自性や優位性を無効化し、顧客が弱者を選ぶ理由を奪います。弱者の特定の市場での足場固めを阻止し、市場全体における自社の影響力の維持・拡大が期待できます。
弱者の戦略は戦う土俵を意図的に絞り込み、特定市場・特定分野で1位をとることにあります。強みを活かせるニッチ市場に特化し、リソース集中で特定分野での圧倒的1位を目指します。局所的な成功を確実に掴んで、収益基盤を固めて成長の足掛かりを築きます。戦場を選び抜き、一点突破によってNo.1ポジションを獲得して、生存と成長の道を切り開くという考え方です。特定の市場、限定された分野で圧倒的1位の地位をまず確立することが弱者の戦略といえるでしょう。
ランチェスター戦略を取り入れるメリットとしてリソースで圧倒的に勝る強者に対し、弱者でも勝つことが可能になることがあげられるでしょう。ランチェスター戦略、特に弱者の戦略(第一法則の考え方を応用)では戦うべき市場や地域、顧客層を限定して自社の限られたリソースを一点集中させることで、局地的なNo.1を目指します。強者との全面対決を避け、勝てる可能性の高いニッチな領域で優位性を確立する戦い方を示してくれるため、弱者であっても市場で生き残る可能性が高まります。
ランチェスター戦略を活用することで得られるもう一つのメリットは、取るべき策が明確になることがあげられます。経営戦略の立案は、時に経営者の経験や勘に頼る場面も少なくありません。しかし、ランチェスター戦略は客観的なデータに基づいて自社のポジション(強者か、弱者か)を定義します。立場に応じて最適な基本戦略(第二法則を応用した広域戦か、第一法則を応用した局地戦・接近戦かなど)や具体的な戦術の方向性を示してくれます。目標設定や資源配分の優先順位が明確になり、論理的で一貫性のある戦略の立案と実行が可能となるでしょう。
強者のランチェスター戦略の事例として、松下電器産業(現パナソニック)があげられます。松下幸之助氏の下、全国に強力な地域販売店網を整備し、市場を面で制圧する広域戦を展開しました。加えて、競合が新製品を出すと、豊富な開発・生産力を背景に同等以上の製品をすぐ投入する「ミート戦略」を徹底。他社の差別化を封じ込め、顧客が他社を選ぶ理由を奪いました。物量と模倣で市場を支配する強者の定石と言えるでしょう。松下電器は、強者のリソースを最大限活かして、市場シェアNo.1の地位を不動のものとしたのです。
大手旅行会社が競合する市場で成長したHISは、弱者のランチェスター戦略を実践した企業として知られています。創業初期、リソースの乏しいHISは弱者でした。大手が注力していなかった海外格安航空券というニッチ市場に事業を特化しました。徹底した低価格を武器に若年層の顧客を開拓し強者との全面対決を避け、勝てる領域でNo.1を目指すという弱者の定石を実践したのです。選択と集中が、後の急成長の基盤となったといえるでしょう。
徳島県上勝町の株式会社いろどりは、地域の高齢者が主体となり葉っぱ(つまもの)を販売し成功した、弱者の差別化・地域戦略の好例です。過疎化・高齢化が進む山間の町で、日本料理の「つまもの」に着目して、高齢者が栽培・出荷するニッチ市場に特化するビジネスを構築しました。IT活用で独自の受発注システムを確立し、品質と効率を向上させました。地域経済の活性化にも大きく貢献しています。ニッチ市場への一点集中と独自の価値提供で、地域資源を活かした持続可能なビジネスを成功させました。
ランチェスター戦略が示す結論の一つがナンバーワン主義です。事業を行う上で目指すべきは、特定の市場や分野における圧倒的な1位であるという考え方です。ランチェスター戦略では、市場シェア1位の企業と2位以下の企業とでは、収益構造、価格設定の自由度、市場におけるブランド評価や顧客からの信頼度などに格段の差が生じると考えます。上位企業や競合からのプレッシャーを受けずに、主導権を握るために1位にならなければなりません。リソースの限られる弱者にとっては、狭い領域でも構わないのでNo.1を確立することが、生き残りとその後の成長への重要なステップとなります。
ランチェスター戦略の根幹をなすもう一つの結論が、一点集中主義です。経営体力で劣る弱者が広範囲に戦線を広げ、経営資源をあちこちに分散させると中途半端な結果しか生まず、強者に各個撃破されるリスクを高めます。第一法則が示すように、局地的な戦闘では投入された戦力が直接勝敗に影響します。自社の強みが活きる市場、製品、地域、顧客層などを慎重に見極めたうえでのリソースの配分が重要でしょう。多角化や花形市場への安易な参入は避け、選択と集中を徹底することが求められます。
ランチェスター戦略における結論として、足元の敵に勝つという考え方があります。最終目標がトップであっても、一つ下の順位にいる最も身近な競合を具体的なターゲットとし、確実に勝つことを目指します。業界No.1の企業は弱者にとってはあまりにも遠い存在であり、直接的な目標としては現実的でないことが多いでしょう。それよりも、自社と立場の近い企業(例えば、現在3位なら4位の企業)を足元の敵と定め攻略目標とする方が、戦略も具体化しやすく組織の士気も高まります。まずは、身近なライバルを徹底的に分析し弱点を突く、あるいは自社の強みを活かしてシェアを奪い着実に順位を上げていきましょう。
ランチェスター戦略の実践例の一つが、地域戦略です。経営資源を集中投下して、特定地域内での圧倒的No.1の地位確立を目指す戦略を指します。店舗ビジネスや地域密着型のサービス業など、全国規模で戦うリソースがない弱者にとって有効な戦略といえるでしょう。特定の市町村や鉄道路線沿線などで、集中的な販促活動やきめ細かな顧客対応を実施します。地域内での認知度と市場シェアを高め、競合他社に対する優位性を確立します。まずは狭いエリアでもNo.1になることで、安定した収益基盤を築くことが可能となるでしょう。
シェアアップ戦略とはランチェスター戦略の市場シェア理論に基づき、自社の市場におけるマーケットシェアを段階的に向上させるための目標設定と実行計画のことです。ランチェスター戦略では単に売上高を追うだけでなく、自社がどれだけのシェアを占めているかが、企業の競争力や安定性を測る上で重要だと考えます。まず現状のシェアを正確に把握し、次に目指すべき具体的な目標シェアを設定します。目標シェアに向けて、どの競合からシェアを奪うか、どの顧客セグメントをターゲットにするか、どの製品・サービスでアプローチするかを明確にしましょう。
ランチェスター戦略は営業戦略において、有効な考え方を提供してくれるでしょう。営業活動は、顧客という戦場における一対一の接近戦や局地戦と捉えることができます。弱者の営業戦略では、広範囲の顧客に薄く広く営業するのではなく、成約可能性の高いターゲットにリソースを集中させるのが基本です。一人の顧客に対して、競合他社の営業担当者よりも密な接触を図り(第一法則の応用)、信頼関係を構築します。単なる価格競争に陥らず、自社の強みを活かした提案や効率的な訪問ルートも重要となるでしょう。限られた営業力を最も効果的な形で投入する営業戦略への応用は成果を出すための実践例です。
ランチェスター戦略は、厳しい競争環境の中で自社のビジネスを強化するための非常に有効な武器となる考え方です。ランチェスター戦略の核心は、自社の置かれた市場でのポジション(強者か弱者か)と保有リソースの状況に応じて最も効果的な戦略を選択・実行することにあります。特にリソースの限られる中小企業やスタートアップ企業にとっては弱者の戦略を学ぶことで、大手企業に対抗し市場で生き残るための道筋が見えてくるはずです。本記事で紹介したランチェスター戦略の知見を経営やマーケティング、営業活動に活用して競争力のあるビジネスへ発展させていきましょう。
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