賃上げ促進税制とは【申告方法やメリットデメリット、注意点などを解説します】

記事更新日:2022年10月21日 初回公開日:2022年10月20日

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メリットばかりが注目されがちな賃上げ促進税制ですが、この制度を適用した場合でも損をしてしまう場合があることをご存じでしょうか。この記事では、制度を適用するうえで経営者として知っておきたい要件や期間について、プラスな面のみではなくマイナスな面についても説明しています。賃上げ促進税制の適用を悩んでいる方や令和四年度の改正による変更点について知りたい方はぜひご一読ください。

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賃上げ促進税制とは

所得拡大促進税制との違い

所得拡大促進税制と賃上げ促進税制では、対象期間と対象企業が異なります。所得拡大促進税制では令和3年4月1日から令和4年3月31日に事業を始める中小企業が対象でした。これに対して賃上げ促進税制は、令和4年4月1日から令和6年4月1日に事業を始める大企業と中小企業が対象となります。また法人税の増加分の控除率に関しても、所得拡大促進税制の最大25%から賃上げ促進税制では最大40%まで増加しています。そのうえ一部の上乗せ要件は緩和されているため、政府は賃上げ促進税制によって更なる賃上げが期待しているでしょう。

賃上げ促進税制の種類

大企業と中小企業の定義

賃上げ促進税制では中小企業等と大企業の2つに分類されています。中小企業等とは、①資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人、②資本又は出資を有しない法人のうち従業員数が1,000人以下の法人、③従業員数が1,000人以下の個人事業主、④協同組合等と定義されています。また、大企業は資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社と定められています。この制度の適用に関しても大企業と中小企業とでは最大控除率が異なっており、要件を満たす給与支給額の範囲にも違いがあることに注意する必要があります。

大企業の賃上げ促進税制

大企業の賃上げ促進税制について、通常要件と上乗せ要件のどちらも満たした場合は法人税の控除率は最大で30%となります。大企業の通常要件は、継続雇用者の給与支給額が前年度比で3%以上増えていることであり、法人税の増加分の15%が控除されます。また、上乗せ要件は2種類あり、継続雇用者の給与支給額が4%以上増えている場合に10%控除され、教育訓練費が20%以上増加している場合に5%控除されるという仕組みです。

中小企業の賃上げ促進税制

中小企業の賃上げ促進税制について、法人税の最大控除率は40%となります。中小企業の通常要件は雇用者の給与支給額が1.5%増加することで、法人税の15%が控除されます。また、上乗せ条件として、雇用者給与支給額が2.5%以上増加することで15%が控除され、さらに教育訓練費が10%以上増加することで10%控除されます。上乗せ要件の教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得又は向上させるために支出する費用のうち一定であるものを指します。

賃上げ促進税制の申告方法

確定申告の際に賃上げ促進税制の書類を添付する

賃上げ促進税制の申告方法は、確定申告書類に控除の対象となる給与支給額の増加を示す書類や、控除を受ける金額及び金額の計算に関する明細を記載した書類を添付することで適用されます。また、上乗せ条件を満たしている場合は適用を受ける事業年度の確定申告書に教育訓練の実施時期や内容、対象となる氏名を添付する必要があります。これに加えて教育訓練の費用を支出した年月日、内容及び金額並びに相手先の氏名又は名称を添付しなければなりません。

賃上げとしてみなされる場合がある

給与が一定以上増加していない場合でも賃上げ促進税制を適用することができる場合があります。企業がワークライフバランスを重要視することで給与水準の変動が見込まれる社員がいる場合、そのような社員の給与を除いて申請することが可能となっています。例として再雇用の社員や、育児休暇や介護休暇を取る社員が当てはまります。変動する給与に関してはこのような措置を受けることもできるため、企業て一定の基準で給与を計算することが可能となるでしょう。

賃上げ税制による被雇用者のメリット

給与や賞与の金額が上がる

この制度を適用するためには給与支給額を増加させることが絶対条件となっています。そのため、被雇用者の立場から見ると最低でも中小企業では1.5%、大企業でも3%の給与や賞与の増加が期待でき、これは社員のモチベーションの向上にもつながるでしょう。しかし、賃上げ促進税制では給与支給額の総額の増加が要件とされているため、役職によって給与や賞与の増加額に違いが生じる場合がある点には注意する必要があります。

賃上げ促進税制を利用するメリット

設備投資の予算を増やすことができる

設備投資の予算を増やすことができるという点も賃上げ促進税制の大きなメリットでしょう。賃上げ後の給与支給額の予算に、その年の控除率をかけることで節税額を計算することができます。その金額から賃上げによる予算増加額を引いた金額を、設備投資に充てることができます。設備投資額が増加することで有形固定資産と無形固定資産のどちらも向上することができるため、会社としても長期的な成長を見込めるでしょう。

コストを抑えて人材育成ができる

賃上げ促進税制を適用することで、より一層コストを抑えた人材育成を進めることができるでしょう。これは、賃上げ促進税制の控除率が教育訓練費を増加させることによっても上げることができるためです。教育訓練費とは、雇用者の職務に必要な技術や知識を習得するために支出する費用の事を指します。教育訓練等を法人自らが行う場合や他の企業に委託する場合でも、かかった費用は教育訓練費として扱うことができます。そのため、賃上げ促進税制を適用することでほとんどの場合は本来よりも低いコストで教育を行うことができるでしょう。

優秀な人材を確保できるようになる

賃上げ促進税制を利用することで優秀な人材が退職する可能性を低くすることができるでしょう。優秀な人材は給与や待遇に不満を感じたり、やりがいを感じなくなることによって退職する傾向にあります。この制度を利用するにあたって教育訓練費を増やしたりや賃上げを進めることができます。そのため、社員に新たな経験を積んでもらえるようになり、そのうえ給与も増加するため優秀な人材の確保が期待できるでしょう。

賃上げ税制を利用するデメリット

資金繰りが困難になる可能性がある

要件を満たすために給与支給額を増加させたことによって、資金繰りが困難になる可能性があります。この制度を適用するためには給与や賞与の賃上げが絶対条件であり、一度引き上げた給与を引き下げることは社員のモチベーションに大きく影響するでしょう。また、雇用安定助成金のような政府から補助されている金額は給与支給額とみなされないことにも注意しましょう。資金繰りに少しでも不安のある会社は、中長期的な目線で慎重に検討することが重要です。

制度を適用することで損をする場合がある

制度を適用することで自身の会社が損をしないかを必ず確認しましょう。この制度では給与支給額の総額の増加が絶対条件となります。そのため、給与支給額の増加額とその給与支給額に対応する控除額がマイナスになってしまう場合は、制度を適用するほうが支出が多くなってしまいます。例として、給与支給額の増加額は元々の給与支給額や社員数によって様々であるため、今一度注意して確認しておく必要があります。

賃上げ促進税制を利用する注意点

青色申告書の組織のみが対象となる

賃上げ促進税制を適用する際、青色申告書である組織のみが対象であることに注意する必要があるでしょう。賃上げ促進制度は令和4年度4月1日から令和6年度4月1日の期間を設けています。また、青色申告書の申請は、その年の3月15日までに「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。そのため、現在白色申告書である企業は、制度の適用を開始する年度の年の3月15日までに青色申告書の申請をしなければなりません。

法人税の控除率の上限は20%である

賃上げ促進税制によって控除できる法人税全体の控除率は20%と定められています。国が公表している賃上げ促進税制の資料では、「控除率が最大で30%または40%」と説明されています。しかし、この数値は賃上げによる法人税の増加額に対する控除率を表しているにすぎず、法人税全体の最大控除率は20%が上限です。すなわち、ある中小企業が要件を満たして40%控除されたとしても、増加額の40%が法人税全体の20%の金額を上回ってしまった場合は結果的に法人税全体の金額が増加してしまうことになります。とはいえ、本来の賃上げの際の支出の増加や訓練費用を間違いなく軽減することができるでしょう。

賃上げをしなくても制度が適用できる場合がある

中小企業では賃上げをしない場合でも賃上げ促進税制を適用することができます。中小企業の給与支給額の増加率は、継続雇用者の給与支給額に新入社員の給与支給額を加味して計算されます。そのため、給与支給額を増加させなくても採用する新入社員を増やすことによっても制度が適用されます。しかし、制度が適用されるために必要な金額は大きく変わりません。そのため、優秀な社員のみを残したい場合は給与支給額を増加させるほうがよいでしょう。

賃上げが進まない大企業にペナルティが科せられる

賃上げ促進税制の適用を考えていない大企業も、前年度比の給与支給額の変化率を意識しておく必要があるでしょう。賃上げが消極的である場合にペナルティが科せられる点に注意しなければなりません。すでに研究開発税制を適用している場合に継続雇用者の給与支給額が0.5%以上増加していなければ、研究開発費に関する優遇措置が停止されます。ただし、令和4年4月1日から令和5年3月31日の期間が終了すると給与支給額の増加率が1%未満である場合に優遇措置が停止されることとなります。

新たに法人を設立した年度は賃上げ促進税制を適用できない

賃上げ促進税制は、その年度内に新たな法人を設立した場合には、その年度内は賃上げ促進税制を適用することができません。賃上げ促進税制は青色申告書の法人や企業のみが適用できるため、年度内に青色申告書の申請ができないため不可能となっています。もた、青色申告書の申請期間について、法人設立の日以後3か月を経過した日又は最初の事業年度の終了日のいずれか早い日の前日までと指定されていることにも注意が必要です。

まとめ

制度を適用するかを長期的な目線で吟味しましょう

賃上げ促進税制を適用するメリットやデメリット、注意点について理解していただけたでしょうか。賃上げ促進税制は前年度比の給与支給額をもとに増加率が計算されるため、継続して賃上げを行う必要があります。そのため、賃上げによって財務的な圧迫が生じないかどうかを長期的に見据えながら吟味する必要があります。賃上げは優秀な人材が入社する可能性を高めることにもつながるため、適用することでよりよい組織を作ることができるでしょう。

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