博士人材の現状とは?【博士人材の必要性やキャリアパスなどを解説します】

記事更新日:2023年05月10日 初回公開日:2023年05月10日

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日本で最高の学位である博士号を取得する人は1年に15,000人ほどの狭き門であり、その能力を買われて海外の企業に就職する人も少なくありません。日本では博士号を取得した人材であっても民間企業に就職する人は少なく、多くが大学の研究室に残ることを希望するのが実態です。しかし大学側ではパーマネント職と呼ばれる長期雇用は停滞状況で、博士号を取得しようとする博士人材予備軍も減少傾向にあります。ここでは、博士人材の現状や今後の課題などについて詳しく説明致します。既に博士号を取得しているドクターや、博士号取得を目指す方々のお役に立てれば幸いです。

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博士人材とは

博士号を取得した人材

博士人材とは博士号を取得した貴重な人材で、日本の人口の約0.4%にあたる51万人程度だけが該当します。ただし約50万と言われる人材は、日本で博士号を取得したトータル数であり、日本から海外へ渡った人や外国人も含まれるため、実際にはもっと少ないのが実状です。博士号とは最高学位の称号であり、海外では「Doctor’s degree」や「Philosophiae Doctor(略してPh.DまたはD.Phil)」などと呼ばれ、「知のプロフェッショナル」と言える人材です。

博士人材の現状

博士課程への進学率は年々低下

日本の現状

日本における博士人材を目指す大学院への進学率は、年を追うごとに減少に向かっています。博士になるためには、大学卒業後に修士課程(前期博士課程)と博士課程の最低5年(前期2年・後期3年)の歳月を費やすとともに、最終段階で論文が認められなければ博士の称号は得られません。5年間は無収入のうえに費用がかかるとともに、博士取得後の大学残留が難しくなっていることもあり、博士課程への道を諦める人も多くなっているのが現状です。また、規程の単位を取得していても、最終の論文で躓く人も多く、単位だけを取得して大学を去る人もいます。

他国との比較から見た日本

日本で博士号取得を目指す人は大学に残って研究を続けたいと考える人が多く、民間の企業に就職する人は少なくなっています。これに対して欧米や中国などでは、民間会社の経営陣に就くなど、日本とは大きく様相が違っています。他国では博士人材を重用する傾向が見られることもあり、博士号取得者数も順調に増えています。他国では活躍する博士人材が増えるとともに取得希望者も増加しています。日本だけが博士号取得者が減少しており、専門分野の研究に後れをとることが懸念されます。

研究者以外のキャリア

スタートアップでの活躍

海外や日本の一部においても変化する時代に伴い、いままでには無かった専門的な分野でスタートアップする博士号人材も見られます。日本では新規企業および一般企業に就職することに尻込みする人が多く、大学に残りたいと思う人が半数以上を占めます。しかし海外では、待遇なども良く博士人材を重用あうる傾向があるため、積極的に企業に就職する人も多く見られます。新規事業の開発が進む中で、専門知識を持った博士人材は研究者以外のキャリアである、スタートアップでの活躍も期待されているのです。

博士人材の必要性

日本の産業において基盤を作る

日本の産業において、基盤となる専門知識を持つ人材は不足しており、博士人材を各企業が必要としています。博士にも専門分野が増えているため、企業では必要とする人材を選ぶことが重要です。また博士号取得の方法は大学院に入る方法(論文博士に対して課程博士と呼ぶ)が一般的です。しかし博士号取得には、論文一本で勝負する「論文博士(ロンパクとも言う)」という方法があり、難しいのは事実ですが大学院に行かず社員から博士人材を誕生させるのも方法の一つと言えます。一人を育て上げることで、優秀な人材をたくさん輩出できるでしょう。

政府による博士人材の方針

企業内研究を促す方針を23年4月に設ける

政府は2023年4月に、企業の研究において博士人材を積極的に活用するよう、博士人材を登用した企業に税金を優遇する制度を設けました。企業が博士人材を登用し、企業の高度な研究開発を促進することで、産業における競争力を強化する事が狙いになります。優秀な博士人材を多数抱える海外の企業に比較すると、企業の研究開発は後れをとっている言わざるを得ません。こうした政府の方針は、博士人材が民間企業へ進出するきっかけに繋がり、企業と博士人材を繋ぐ架け橋になります。

関係府省での主な取り組み

各大学でのフェローシップ制度

政府による博士人材方針による関係府省が主体となって行う取り組みの中に、各大学でのフェローシップ制度があります。大学卒業後の博士課程にある約5年は(4年制大学と6年生によって期間が異なります)収入が無いばかりか、生活費や学費も必要となるため、博士号取得を諦める人がいることも事実です。そこで国では文部科学省が筆頭となり、各大学に博士号取得へのフェローシップを提案しています。各大学における博士号取得課程にあるものに対し生活費を援助するとともに、博士号取得後に就職先となるキャリアパスを用意した大学にも補助金を出すという制度です。

企業から求められる博士人材とは

企業が博士人材を採用する理由

専門性がある

企業が博士人材に最も求めるものは、企業に役立つ専門知識です。とくに専門性のある新規事業などにおいて、深い知識を持つ博士人材に期待が寄せられています。企業も変化する時代に突入し、いままでとは違う企業の在り方を模索しており、異分野に進出するためには深い専門知識を持つ人材との連携が不可欠となっているからです。先頃までは民間企業の博士人材に対する有用性に対する意識も低いものでしたが、現在では博士人材を登用した企業の8割は、期待に応えたまたは期待以上であると評価しています。

発明生産性が高い

企業が博士人材を採用する理由の一つが発明生産性の高さにあります。博士号の取得が難しいという最大の原因が「論文の発表」です。大学卒業や修士課程卒業においても論文を書きますが、博士論文の難しさは特別なものになります。とくに既存のものではないような「オリジナリティー」が必要であり、博士課程の単位は取ったものの、論文が書けずに博士を諦める人も多くいるのです。その論文審査に合格した者だけが博士号を取得できるため、博士人材は新しい発想やアイデアを生み出す企業の宝となり、生産性に直結する貴重な人材として期待されています。

企業が博士人材を避ける理由

企業と研究分野がマッチングしない

企業が博士人材を避ける理由に、求める研究分野がマッチングしないことが挙げられます。企業としては専門性の高い知識を持つ博士人材を欲しているのですが、それに応えてくれる博士人材がいないことも多くあるのが現状です。また、多様化に合わせてたくさんの博士号が許容されました。それゆえに、博士号の名前を聞いただけでは自社が求める研究分野とベストマッチするか分かりにくいことも大きな問題です。しかし近年では、国が企業の要望を大学に伝えるなどして博士人材の育成方法も変化し、企業と博士人材のミスマッチは減少傾向にあります。

ビジネス知識やコミュニケーション力の不足

文部科学省によるアンケート調査を見ると、企業と作詞人材のミスマッチ原因が浮き彫りとなり、ミスマッチを認識できないのは指導にあたる大学だけです。博士人材の多数が、ビジネス知識やコミュニケーションの力の不足を自覚しているのに対し、企業側ではそれが不足していると指摘しています。博士人材は学位取得時点で30歳前後になっており、自分が苦手とするビジネス知識やコミュニケーション力の不足を、若い先輩から教えてもらわなければなりません。企業内に学歴と年齢による大きな歪みが生まれることも危惧されます。

博士号を活用するためには

博士人材データベース(JGRAD)

博士号を有効活用するために、文部科学省のNISTEP(化学技術・学術制作研究所)が運営する博士号データベースである「JGRAD」に参加されるとともに登録されることをおすすめします。JGRADへの参加および情報登録は義務ではありませんが、登録された博士号取得者にメリットが用意されています。とくに博士人材の民間キャリアについての情報は乏しく、博士号を無用の長物としないためにもJ、GRADによる情報提供は非常に役立つ有益なものとなっています。

博士人材が必要な分野や業務を把握する

博士号を活用するためには、企業などが必要とする分野や業務を把握することが大事です。企業側では必要な知識を持つ人材をピンポイントで狙っています。自分の強みとなる専門知識が生かせる分野であるか、業務内容なども良く確認しましょう。また、人気のある分野や多くの人が得意とする分野では競争率も高く、より深い秀でた能力や知識が必要となります。人気のある分野や業種に就くには、いかに知のプロフェッショナルと呼ばれる博士人材といえどもトップクラスの知識と実行力が必要です。

博士人材のキャリアパス

大学における研究者

博士人材のキャリアパスとして真っ先に挙げられるのが、博士人材にも人気がある大学における研究者の道です。有期雇用であるポストドクター(略称ポスドク)から、准教・教授と上がっていくことが一般的で、博士人材も多くの人が大学に残ることを望んでいます。しかし、大学の研究室では博士号を取得した全ての人を受け入れることは現実的に不可能です。博士号を取得した60%以上の人材が大学に残るものの、ポスドクは期間を満了した後に就職先がないなど、問題は山積しています。

公的研究機関における研究員

公的研究機関(国公立大学を含む)は、博士人材にとって非常にやりがいのある職場といえます。大学に残る選択肢を除けば最も人気が集中する職種であり、自分の好きな分野を研究し続けることが可能です。公的研究機関は大学などとあわせて「アカデミア」と呼ばれ、民間企業とは区別されています。公的研究機関も大学と同様にパーマネント職を現状維持することさえやっとのことです。雇用人数は限定され人気の分野には多くの人材が殺到し、選ばれるのはトップの知識を持つ少数だけになります。

民間企業への就職

海外の民間企業で博士人材が活躍しているのを見れば、日本も遅ればせながら民間の企業から必要とされることが多くなるのは間違いないでしょう。変化し続ける現代社会で民間企業が生き残るためには、新しい考えや新分野への進出が必須です。博士人材も専門が多く分かれますが、とくに産業界で重要な役割を担う専門知識を持つ人材が求められるようになり、博士人材は民間企業から歓迎されるはずです。そのためにも企業人として課題となる、コミュニケーション力や産業以外の経営知識なども備える必要があります。

まとめ

博士号の必要性は今後増えていく

これから予想もできない時代へ突入し、企業や人材の多様化は必須の要件となっており、博士人材についても同様のことが求められるでしょう。最高の知識を新しい時代に生かすには、変化への対応力や専門分野以外の知識が必要です。新しいアイデアを研究開発によって構築するためにも、今後は博士人材の需要は増えていくに違いありません。現在までは一般の人たちの理解も乏しく、博士人材の待遇も決して恵まれたものではありませんでした。しかし国の働きかけもあり、企業や周囲の人たちの博士人材を見る目は大きく変化しています。今後は大きな期待に応えて、素晴らしいアイデアで新時代を切り開いてください!

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